「特定名称」が生んだ日本酒のいびつな価格構造
「特定名称」が生んだ日本酒のいびつな価格構造

2019.08.2

「特定名称」が生んだ日本酒のいびつな価格構造

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どーも!ぼんちゃんです!

ついに夏になってしまいました。夏になるとテンションが上がる民族ではない僕にとって、この数カ月はひたすら憂鬱な期間となります。暑いですが夏バテ防止のためにしっかり燗酒を飲んで、厳しいこの季節を乗り切りたいと思います。

ちなみに日本酒業界も夏にテンションが上がる民族ではありません。7月・8月は出荷量ががくっと下がる季節なのです…。みなさん日本酒飲んでくださいね、お願いしますね。季節限定酒の「ひまわり」を、唐揚げを肴にでもして飲んでみてください。ビール超えちゃいますよ。

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▲ほっけのこらむより拝借

ということで本題に入っていきます。

今日からは「日本酒の価格史」と題して連載してまいります。みなさん「日本酒の価格は?」と聞かれていくらぐらいを想像するでしょうか?たぶんかなり答えが分かれると思います。種類、容量、蔵によって本当にバラバラですからね。

その中で僕自身とある課題と言いますか、これから業界として解決していかなければならないことを考えています。当連載の中でその想いが少しでも皆様に伝わったら嬉しいことこの上ないです。ちなみに弊社としてではなくあくまでも自分自身の考えなので、そこはご理解いただきますようお願いいたします。

日本酒の「おいしい」と価格は比例しない

「いきなりぶっこんできたなコイツ」という小題ですが、僕が感じている課題というのはこの事です。“嗜好品ですし感性は様々なので”という注釈は付くものの、本来おいしい物は高く、まずい物は安く売られるのが正常な市場であると考えます。

日本の超デフレ社会において「コスパ」という言葉がよく使われます。おいしいのに安ければコストパフォーマンスがよろしい、費用対効果が高いなどと言われるのは説明するまでもないでしょう。実際安くておいしい物に出会ったらめちゃくちゃ嬉しいですよね。

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僕の考えはこれを真っ向から否定する物です。マイ財布は「おいお前、なに血迷ったこと言っているんだ!金がなくなるぞ!競馬できなくなるぞ!」(※筆者は競馬が大好きです)と必死に叫んでいますが、酒を販売する人間として、これは日々思っていることなので正直に言いました。

補足しておきますが、日本酒を無理矢理高く売りたいというわけではありません。ある視点から言えば、今の日本酒の価格自体はまあまあ適正だと思います。ではなにが問題なのかと言うと日本酒業界全体の価格構造です。これがちょっとおかしいかなと思います。

僕が好きなジャンルの酒の話をしますと、大体は1升瓶3000円ぐらいまでで買えてしまいます。普段あまり1升瓶を買わない人はイメージしづらいかもしれませんが、これってかなり安いと思います。1日2合までという超健康生活をすれば、日々の酒代がたったの600円ですよ?安いですよね?

逆にいわゆる高級ジャンルに区分される大吟醸クラスでは1升瓶5000円程度がざらで、10000円以上する商品もあります。1日2合の健康生活をしても日々の酒代が1000円~2000円。これは高い。大蔵大臣に首を絞められます。大吟醸は飲みやすくて好きという方も多いはずですが、なかなか手の届かない値段です。

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こうやって比較すると、低価格で買えてしまう酒を好きな僕は馬鹿舌だと勘違いする不届き者がいると思います。そんなことはない…はずです。僕にとっては3000円のお酒も10000円ぐらいの価値を感じます。

そもそも「安酒」という言葉が、不味い酒の代名詞みたいに使われているのでおかしくなります。別に安くてもおいしい酒はたくさんあります。全国の酒蔵の企業努力の賜物で、今や不味い酒を探す方が難しくなりました。品質を軽視する企業は相手にされない時代ですからね。

原因は特定名称??

ではなぜここまで価格区分がくっきりしているのでしょうか。原因は平成2年から適用された、「特定名称」と呼ばれる製法および品質の表示区分にあると考えています。

そもそもですが、吟醸酒、純米酒、本醸造酒を、それぞれ所定の要件に該当するものにその名称を表示することを「特定名称」と言います。特定名称と所定要件の関係は以下の通りです。

特定名称

大きい部分は醸造アルコール添加の有無と精米歩合の2点です。みなさんも無意識にこの特定名称で酒の中身を判断し購入材料にしているはずです。そこに今回僕が指摘する課題が含まれています。

そもそも特定名称は酒をランク付けする制度ではありません。例えば大吟醸酒と本醸造酒を比べれば、精米歩合等で明らかに原価が違う場合が多いため、大吟醸酒の方が良い酒と言えるかもしれません。

しかし原価というのもまたややこしい話で、米だけを見ても安い米から高い米から様々あります。安い米を使った精米50%の純米大吟醸より、高い米を使った精米70%の純米酒の方が高いなんてことも普通にあります。

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加えて同じ量の米からできる酒の量もそれぞれです。仕込配合や米の溶け具合、上槽方法(酒の搾り方)でかなり左右されます。

つまり何が言いたいかというと、特定名称でいう吟醸がすべて高級酒で原価が高く、かつ高品質というわけではないということです。高い物=おいしいが消費者の考えの根底にある中、どうしてもそこと特定名称がリンクしてしまっています。

大系化した場合、例えば純米大吟醸に高品質・高コスト・高価格の商品が集まり、純米酒に逆が集まるというのは理解できますが、安い純米大吟醸を発売することができても高い純米酒を発売できないというのが市場の現状です。

そういった既存の価格構造の枠組みを超えた価値提案ができれば、より日本酒の魅力を伝えていけるのではないかと思うわけです。

特定名称ごとの価格調査

ここまで色々書いてきましたが、「従来の特定名称ごとの価格帯ってどんなもん?」という方も多いと思います。僕も気になるので調べてみました。

調査対象は岩手県・埼玉県の組合加盟酒蔵です。基本的には各社WEBサイトに載っている商品のみが対象で、WEBがない、あるいは価格が載っていない蔵に関しては対象外です。一部酒販店ECサイトを参考にしたものもあります。弊社に関しては全商品を対象にしました。

今回の調査では純米酒(特別純米酒を含む)・純米吟醸・純米大吟醸の720ml商品にスポットを当て、各県の最高・最低価格を算出しています。

【岩手県】

純米酒は15蔵の51品が対象です。

岩手純米酒

純米酒は基本的に低価格商品が目立ちました。米は酒造好適米から安価な加工用米まで様々で、特別純米酒も含んだために精米歩合も70%から吟醸クラスまで削った55%と幅広く、今回調べた中で一番バラエティーに富んでいました。

最高価格は県産酒造好適米を使用した精米60%の夏限定商品。最低価格は米が不明ながらも同じ精米60%の純米酒。どういった工程の違いでこの差が生まれているのか興味が湧きます。

また同一蔵で高精白の商品より低精白の商品の方が高いというケースが多々ありました。各蔵が精米歩合を商品の価値として大きく考えていないことがよくわかる結果となりました。

純米吟醸酒は12蔵の28商品が対象です。

岩手純米吟醸

今回調べた中で最も最高と最低の価格幅がない商品群でした。アイテム数の少なさから考えても市場規模は大変小さく、一番酒の個性を出しづらいジャンルなのかもしれません。

米という視点で見れば愛山、雄町、山田錦など、県外産の酒造好適米を使用した商品に関しては相対的に値段が高い印象です。

純米大吟醸酒は14蔵の35商品が対象です。

岩手純米大吟醸

ご覧の通り最も価格幅が大きいジャンルでした。720mlで5000円というと間違いなく各蔵の最高級商品で、前2つの最高額から考えればとんでもなく単価が上がっています。平均価格で1200円の差があります。
純米大吟醸で5000円クラスは鑑評会出品酒などが多く、各蔵の最高級品です。米の原価等はもちろん要因としてありますが、無圧搾りなどで搾れるお酒の量が少ないことも価格に反映されています。

しかしながらこのクラスのお酒については付加価値の提案が大きいと思います。実際鑑評会出品酒を3000円台で販売している蔵もあり、ある意味で商品そのものの真価を提案したジャンルと言えます。

【埼玉県】

今回は岩手県との比較として埼玉を選出。実は全国4位の生産量を誇る酒どころの埼玉は、大消費地の近隣として、決して消費量が多いとは言えない岩手と良い比較になるかなと思い選びました。

純米酒は19蔵の36商品が対象。

埼玉純米酒

最安値は700円、最高値は2000円で岩手県よりだいぶ開きがあります。1000円前後かつ原料米不明の酒が多く、かなりお手頃価格ジャンルに振り切っているなあという印象です。

調べる前は首都圏に近い方が平均単価が高くなると予想していたので、純米酒の時点でこういった結果になるとは想像していませんでした。

純米吟醸は13蔵の23商品が対象。

埼玉純米吟醸

これまた2000円の差でかなり開きがあります。ただ最高値の3000円商品はかなり珍しい農法で栽培された希少米を使用しているようで、次点が1700円であることから、実質的には純米吟醸の単価が平均で高いわけではないようです。

純米大吟醸は13蔵の15商品が対象。

埼玉純米大吟醸

最高値は岩手県より安いですが、開きはやはり3ジャンルの中で一番大きいという結果でした。また岩手県よりも純米大吟醸を造っている蔵、そして3000円台の商品が少ないのが特徴的です。

1000円・2000円台の比較的安価な純米大吟醸が目立ち、前2ジャンル同様単価があまり高くないという結果となりました。

両県を比較してわかること
この結果から言えることは以下の2点だと思います。

①純米吟醸酒は市場規模が小さい

どちらとも純米吟醸の商品数が非常に少なく、マーケットの中での存在感が非常に小さい印象です。

要因としては精米歩合の観点から言えば、

・55%ぐらいなら特別純米酒として割かしリーズナブルな価格で出せる事
・50%なら純米大吟醸として「ちょっぴり良い酒」として売り出せる

という、ある意味中途半端なジャンルであることが挙げられると思います。吟醸造りと精米歩合は完全にイコールで結べるものではないので、個人的には理由として納得いきませんが…。

ただ最近の業界の傾向から言うと、純米吟醸はオープンな流通ではなく限定的な商品として扱われる機会が多いように思います。弊蔵でも特約店限定商品としてのみ純米吟醸を発売していますし、市場としての存在感が希薄な分、蔵・地酒専門店のこだわりを色濃く出せるジャンルかもしれません。

 

②純米酒の価格には天井がある

純米酒はリーズナブルに飲めるおいしい酒として存在意義があると思います。それ自体別にこのままで良いのですが、やはり窮屈な市場のように感じてしまいます。

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逆に原料米・醸造法までめちゃくちゃこだわった純米酒があっても、赤字覚悟でこの価格帯に収めないと売れない商品になってしまう。

一見「蔵の都合でしょ?」と思えてしまう意見かもしれませんが、純米大吟醸はリーズナブルに飲めるものもあれば、1本10万円以上するような酒もあるわけです。それを考えると純米酒というジャンルの可能性を狭めてしまっているように思えてなりません。

スペックは味ではない

今回のコラムで一番伝えたいのは、自分の味覚を頼って酒を楽しんでもらいたいということです。一見当たり前のことのように思えますが、近年では特定名称、米、精米歩合、酵母などを前提とした日本酒シーンが当たり前になっています。

そういった情報を頭に入れて飲んでしまうと偏見が入ってしまい、素直に日本酒を味わえなくなると思います。みなさんは思い当たる節があるでしょうか?

菊の司酒造ではその課題に対するアンチテーゼとして様々な取り組みを行っています。4月から限定販売している「七福神 非公開」はまさにその代表格ですよね。

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平井六右衛門」シリーズについても、以前までついていた純米酒表記をラベルから外しました。変わらずすべて純米酒ですがそこで選ばれるのではなく、商品のトータルを認識したうえで選んでほしいのです。

 

そもそもですが、「コスパが良い」というのは値段以上のすばらしさ、この商品ならこの価格以上のお金を払っても良いという言葉ですよね。つまり私たちは普段から無意識のうちに、物の価値を凝り固まった枠組み・価格で判断していないはずなのです。

だからこそ自分の味覚を頼って酒を楽しんでもらいたいと思います。自分がおいしいと思った酒が「安かった、これはダメな酒だ」となっては面白くないですよね。自分が良いと思ったら良い酒なのです。

そうした考え方に対して理解が広まれば近い将来、決められた枠組みを超えた日本酒の価値提案を私たち蔵元ができるはずです。精米歩合70%のおいしい超高級純米酒を飲める日がきたりするかも…?

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ぼんちゃん

2017年入社。 「人生なんとかなるよ」と言い聞かせ、のらりくらり生きてる。
連載「教科書には載っていない、日本酒の歴史。」では、
誰もが聞いたことがある日本の歴史舞台の裏側、当時の日本酒エピソードをご紹介していきます。

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