
2019.09.27
こんにちは!風香です。
気温も下がり、ますます秋めいてきた今日この頃。皆様いかがお過ごしでしょうか?
さて、秋と言えばお米が美味しい季節。ここ菊の司でも本年度の酒造りが着々と進んでおります。しかし、世には酒蔵以外にもこの時期お酒造りを勤しむ方々がいることをご存知ですか?
今回の風香の小話は、来る冬に備えるためのお酒のはなしをしようと思います。
10月の異称は色々ありますが、おそらく一番メジャーなのが「神無月(かんなづき)」です。
地方の神様が一堂に出雲大社へ向かわれるため神様がいなくなる、の意でつけられた神無月。出雲大社に向かわれた神様たちは、出雲大社の祭神である大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)と来年の重要課題に関する会議、特に縁結びについて熱く議論しているといいます。
この神無月=縁結びは広く知られている逸話かと思いますが、もう1つ、神様たちが熱心に行っているとされることがあります。それが「秋の新酒造り」です。
10月のもう1つの別称に「醸成月(かみなしづき)」とあるように、全国各地の神様たちは自分の御膝元で収穫・奉納された新米を持ちより、一生懸命にお酒を醸していると昔の人たちは考えていたのです。
今でこそ麹菌が米のデンプンを糖化して、できた単糖をエサに酵母がアルコール発酵をして…と醸造メカニズムがはっきりしていますが、微生物という概念すらない時代では何が起きてるのか人間には知る由もありません。
よくわからないけど、神様がどうにかしてくれてるんだろうな~
みたいなふんわりとしたニュアンスから、神様は度々、酒造りの祖して日本の酒文化の一端を担っていたのです。
神様とお酒に関するおはなしの詳細は、こちらの記事をご参照ください。
酒盛りをしていました。
御神酒あがらぬ神はなし、という文言があります。
神前には必ず酒が供えられており、神様でさえ酒を飲まれるのだから、人間が酒を飲むのは当たり前じゃない?だって人間だもの、という呑み助の屁理屈を言い表したものです。
何かと理由をつけてお酒を飲みたいのが人間。ましてや稲刈りを終えたこの時期なら、パーッと景気良く飲み明かしたい!
…そんな下世話な理由があったのかは定かではありませんが、農民は稲刈りを終える旧歴10月の初亥の日を「亥の子祭り」としてお祝いしていたそうな。
この日は「亥の子酒」と「亥の子餅」で万病を除き、長寿と子孫繁栄を願います。
亥とはイノシシのこと。
一度に沢山の子を産むイノシシは縁起がよく、特に女性の安産の縁起物として大切にされてきました。
亥の子酒はその年に絞った新酒や、体が温まるお燗酒を飲んでいたとされています。
農作業で疲れた体をねぎらい、頑張って冬を超えるぞ!という気概が見えますね。女性やお酒を飲めない子供は甘酒で一息ついていた、とも言われています。
亥の子餅は収穫したての新米を粉にして、大豆、小豆、ささげ、ごま、栗、柿など秋に採れるものを練り込んだ贅沢なお餅です。
見た目がイノシシの子(うりぼう)に似ており、見た目にも楽しい!
現在でも和菓子屋さんなどで販売されており、茶道教室や歌詠みなんかでは季節のおやつとしてなかなかの人気を博しているようです。
私も小話のネタに一つ購入してみようと思ったのですが…残念ながら少しだけ時期が早く、店頭には並んでおりませなんだ。
しょうがないので作りました。参考にしたのはこちらのレシピです。
完成品がこちら。
作ってみてびっくり。案外ちゃんと栄養素とエネルギー量が考えられて作られています。
今回使用した材料、即ち求肥、餡子(小豆)、胡麻、黄粉、栗(中に入れようと思っていたのですが入れ忘れました)でその詳細を見ていきましょう。
まず求肥。一般的に餅米をひいてできた白玉粉や餅粉に水と砂糖、もしくは水あめを加えて練り上げて作られます。今回は普通に砂糖を使用しましたが、昔は玄米や麦芽をもとにして作られた水あめか、柿などの甘い果物の汁を用いていたようです。
その比率は餅粉:砂糖≒1:1!
生地だけでも十分に甘味です。
餡子の原料となる小豆には主に糖質とタンパク質が含まれています。
他にもビタミンB1、B2、カリウムなどのミネラルや食物繊維が含まれていて腸内環境保持にも効果があるとされています。
餡子は製品や作り方にもよりますが、大体100 gあたり300 kcalだと仮定すると、亥の子餅1個に含まれる餡子の量(約20 g)で約60 kcal。求肥と合わせれば1個あたりざっくり180 kcalは摂取できる算段となります。
これは驚異のカロリーモンスター!ごはん茶碗一杯ぶんのカロリーに匹敵します。
疲れた体に染み渡ること間違いなしです。
胡麻はネットやニュースでも取り上げられるほど栄養価が高い食品である事は皆様周知の事実。胡麻にはリノール酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸が脂質中に含まれており、コレステロール値を下げたり血液をサラサラにする機能なんかがあります。構造式が中々に難しく、学生時代はテストで苦労させられました。
今回は求肥に混ぜることでイノシシの体の模様に見立てています。
黄粉は丈夫な骨作りに役立つイソフラボンの他、ビフィズス菌など腸内の優良菌のエサとなる大豆オリゴ糖、食物繊維が豊富に含まれています。
またミネラル分も多く含み、特に鉄分は貧血対策に用いられるほど多量に含まれています。
栗は縄文時代の頃から食されてきた穀物で、ビタミンB1、Cが豊富に含まれています。
通常、ビタミンは加熱に弱く野菜類から摂取する場合生で食べるほかありません。
しかし、栗の場合豊富に含まれるデンプン質がビタミンを保護しているので、加熱してもビタミンが破壊されることなく摂取できます。
亥の子餅に入れる場合、軽く砕いて餡子に混ぜると美味しいかと思われます。
総括すると、亥の子餅は手軽に糖分の摂取でき、且つ腸内環境保持やビタミンの補給が可能なおやつということになります。
昔の食糧事情で考えると相当なごちそうですから、農作業で疲弊した体を労うにはうってつけの一品だったのかもしれません。
これは勝手な持論ですが、辛めの日本酒と甘いお菓子って絶妙に合うんですよ。
さおりんさんのコラムがその最たる例ですね。甘いもの好きな方は一見の価値ありですよ!
今回は当蔵の縁起物、「大吟醸 てづくり七福神」と一緒に実食。
お酒のすっきりとした苦みと甘い餡子がよく合うこと!
穏やかな香りがほっこり、優雅な秋のひと時を与えてくれます。
さて、神様と農民のコラボレーション「神無月と亥の子酒」のおはなし、いかがだったでしょうか?
神様が醸しても、蔵人が醸しても美味しい日本酒。
昔の人々に倣って一献。日本の風土に根ざした飲み方が、新鮮な一杯を現代人たる我々にもたらしてくれるやもしれませんよ。
それでは、今回はこのあたりで。次回もまたよしなに。