黄金色に蘇った岩手の絶景を日本酒でお伝えしたい。
黄金色に蘇った岩手の絶景を日本酒でお伝えしたい。

2019.12.26

黄金色に蘇った岩手の絶景を日本酒でお伝えしたい。

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まいど!ゆーきです。

見渡す限りに揺れる、黄金色の稲。

そんな風景は日本らしいひとつの景色として、わたしたちにとってどこかホッとする、大切なものです。山だらけの小さな島国で、耕地の約半分が田んぼで占められていた時代もあったそうです。

そんな風景はいつしか、彩りのない荒地へと姿を変えています。

いわゆる耕作放棄地は、昭和の終わり頃に比べて4倍に増え、田んぼの作付け面積も減少の一途。もちろん、かつてのように大量に作って売る(売れる)という時代でもなく、食文化の多様性、地方の人口減少、後継者難など様々な理由によって、日本の田園風景は少しずつ色褪せているのです。

そんな中、岩手県雫石町のおよそ5ヘクタールを3年で黄金色に復活させた人がいます。

酒米づくりは「趣味」

岩手山の裾野に広がる田んぼを眺めながらそう話すのは、砂壁純也(しゃっかべ じゅんや)さんです。

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彼は自動車メーカーに勤めながら、朝は日の出とともに起きて酒米づくりをしています。話を聞いている限り、有給は全て酒米づくりに捧げています。話し出すと、ずっっっとお米の話をしています。でも、酒米づくりは「趣味」なのだそう。

日本酒好きが興じて、3年前に酒米づくりを数人の仲間とスタート。県内の酒蔵でお酒にし、雫石の道の駅や取組みを応援してくれた会員に販売すると、即完売になりました。

当蔵にお越しいただいたのがちょうど昨年、2018年の暮れでした。

もちろん活動は知っていましたが、それこそ「趣味レベル」なのだろうと思っていました。なんなら「おれたちの言う通りのお酒を造ってください」なんて言われるのでは、と少しめんどくさいなと思っていたくらいです。しかし、それは間違いでした。

とにかく、ずっと米の話をしている。たまにこちらの話を聞くフリをして、またずっと喋っている。

そして、サンプルのお米を見せてもらうと、それはそれは立派な玄米でした。

心白(しんぱく)がキレイに揃っていて、厚みがあり、カメムシや青米が極めて少ない(色選後だったかな…それにしても綺麗)のです。「ぎんおとめ」「美山錦」「結の香」の3種を手掛けていて、1等を取る実力が備わっていました。2018年度は天候が厳しい年で、酒米栽培にとってはとても大変な一年だったと他の農家さんからも聞いていましたので、本当に驚きました。

その場で契約のお返事をして、当蔵のお米をつくっていただくことに。品種は結の香。

実は結の香の栽培適地は岩手県南とされていて、県北では実績がありません。さらに適地外の米は等級は取れるものの、商品に「結の香」と表示できないルールがあります。私としては、ただでさえ原料米として量が不足している現状でそのルールは無意味な縛りでしかないと思うのですが、品質を守っていくためには仕方がない部分もあります。

そんなお米に、砂壁さんと一年間一緒に挑みました。

岩手山からの吹きおろしに負けないたくましさ

春の雪が降る中で植えた種は、5月の下旬には青々とした立派な苗に育っていました。いよいよ、田植え。

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雲一つない青天を反射した一面の田んぼに苗が植え付けられていきます。酒造りがようやく終わり、出張、週末に控えた蔵開きの準備で溜まっていた疲れも一気に吹き飛ぶほどのワクワクを感じました。

田植えには今年入社したばかりの新人、弟と妻を引き連れてお邪魔し、少しばかりお手伝い。盛流でお世話になっている田村和大さんとはやり方や考え方が違い、妙に感心したのを覚えています。酒造りをしながら、米作りもできるとは、とんでもない贅沢です。

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その後、砂壁さんは一週間に一度写真付きのメッセージをくれました。私もひと月に一回は田んぼを見にいきました。たくましく育っていく稲。穂が出た時の高揚感は言い表せません。

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空色だった田んぼは緑に、そして実りの時期を迎えます。

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秋、うちの田んぼではありませんが砂壁さんの田んぼで倒伏がありました。稲が倒伏したことは反省点ですが、それほど大きく実っていたということ。倒れた稲は品質が落ちるので避けなければなりませんが、砂壁さんグループはよりよい原料米を作るために「攻めて」いました。

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いよいよ刈り取った玄米は、一等米。さてこのお米を、どう醸すか。

いまどき珍しい純米大吟醸にしよう

結の香は、酒米の王「山田錦」を親に持つ品種。タンパク含有量が非常に少なく、見た目は透明感があり、「酒米のダイヤモンド」なんて呼んだりしています。

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この雑味の少ないお米は、いわゆるキレイでフルーティな純米大吟醸に多く使われます。もともと、鑑評会に出品するような高精白のお米として開発したものですから、これが定石。

一方で以前から「普段飲みするようなお酒」に結の香を使ってみたいと思っていたので、今回は平井六右衛門ブランドで少し挑戦することに。

生酛で純米大吟醸です。

生酛(きもと)といえば、精製乳酸を添加せずに自然の乳酸菌を取り入れて乳酸発酵させる伝統的な酒母の製法ですが、これがよく勘違いされやすい。この際お伝えしますが「生酛=お燗」というのは否定します。

 

たしかに、生酛を謳っている商品はコクがあって芳醇なお酒が多い。でもそれは結果論であって、生酛は燗向きの酒を造るための製法ではないのです。

では通常の倍以上の手間と時間をかけて、あえて生酛造りをする意味とは何か。

年に数本しか生酛を仕込まない私が語るのは大変おこがましいのですが、生酛の強みは「アミノ酸」がキーワードだと解釈しています。

日本酒の世界で「アミノ酸」は味の深み、多すぎると雑味、というように特に吟醸の世界では毛嫌いされがちです。もっとも、アミノ酸の旨味は苦味に近く感じるので、酒が痩せていてアミノ酸が高いと、たしかに美味しいとは思えません。

生酛造りでは「酛摺り(山卸)」という工程で米をすり潰しながら濃厚状態を造り、かつ空気中の菌をあえて取り込みます。硝酸還元菌のはたらきでその他の雑菌類を淘汰していくのと並行して乳酸菌が目覚め乳酸濃度が高まっていく。乳酸が濃くなると乳酸菌をはじめほとんどの菌類が活動できなくなります。その状態で、乳酸環境でも動ける清酒酵母を入れ、発酵を進めていくのが生酛造りです。

それらの過程で生酛特有の香りが発生します。そして、通常の仕込みには無い「菌類のバトンリレー」が最も重要だと考えています。

生酛の中で繁栄と滅亡を繰り広げる菌類はそれぞれが特有の有機酸を生成します。その中には多様なアミノ酸も含まれ、通常の仕込みには無い味わいが生まれます。

そして、ここからが重要。

生酛のような超過酷な環境で育った酵母は、強い。

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弱い個体はその環境に耐えられずに死ぬので、強い酵母だけが分裂を繰り返し増えていくのです。この強い酵母をもろみで発酵させることで、できあがり直前のアルコール濃度が高いもろみの環境でも死滅しにくくなるのです。酵母が死ぬと「自己消化」がはじまり、菌体自体がアミノ酸に分解されます。これが雑味の原因です。

つまり、生酛にはふつうの酒母には含まれないアミノ酸(旨味)があり、酵母の自己消化によるアミノ酸(雑味)が少ないということなのです。

これを利用して、今どき珍しい純米大吟醸を造ってやろう。

今、一般的なキレイでフルーティな純米大吟醸は吟醸用の酵母で仕込まれることが多くなりました。当蔵でも使っていますが「きょうかい1801」とか岩手県オリジナル「ジョバンニの調べ」なんかがそうです。基本的に、それらの酵母は華奢なものが多いので「温室育ち」でいい子いい子しながら機嫌を損ねないように醸していきます。

今回は「ジョバンニの調べ」をしっかり苛め抜いて、鍛えました。

シックスパックのマッチョな酵母でした。

30日間しっかり育て上げた生酛は狙っていた成分値ピッタリに着地。その時点で、通常仕込む酒母の倍以上のアミノ酸がありながら、その他の成分は通常値という順調さ。

もろみになってからも、すくすくと発酵が進み、濃糖気味のレシピもお構いなしに終始元気なご様子。このままいけば、年内に搾りという事になりそうです。もろみのアミノ酸も通常の3分の2くらいで収まりそう。

和梨のようなシャキッとしたみずみずしさがありながら、バナナや黄桃のような甘さを感じる香り。輪郭をかたどる酸が全体を引き締めながら、生酛のコクを奥深くで感じていただければ幸いです。

年が明けたら即ビンに詰め、1月中旬にリリースを予定しています。

「平井六右衛門 稲波(いなみ)」と名付けました。

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黄金色に揺れる岩手の風を伝えたい。そう思って名付けました。砂壁さんの喜ぶ顔が目に浮かびます。基本は火入れ、「生汲み」はご注文いただいた分だけ数量限定で詰めます。店頭に並ぶ分だけになりますので、生原酒に興味がある方はぜひお早めに。火入れは1800mlで3,600円(税別)720mlで2,000円(税別)、生汲みは1800mlで3,800円(税別)720mlで2,100円(税別)です。

6年目の平井六右衛門の挑戦、どうぞよろしくお願いいたします。

 

では。

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黄金色に蘇った岩手の絶景を日本酒でお伝えしたい。
平井佑樹 HIRAI YUKI

岩手県最古の酒蔵、菊の司酒造16代目蔵元(予定)。
地元盛岡で生まれ育ち、明治大学を卒業後ブーメランで蔵入り。
日本酒「菊の司」「七福神」「平井六右衛門」を醸してます。
1991年10月12日生まれ。たまの休日はデジイチさんぽ。
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