菩提酛から学ぶ!酒造りにおける乳酸発酵の重要性
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2020.01.14

菩提酛から学ぶ!酒造りにおける乳酸発酵の重要性

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どーも!ぼんちゃんです!

厳寒期に入り、「カラダが芯から冷える今日この頃、燗酒飲みたいな」的な人がちらほら現れる一方、「燗酒に時期はねえだろ!ふざけるな!こちとら夏でも燗なんだよ!」と一人で空想の誰かにキレてるやべえヤツ…。まあ僕なんですけどね。

燗酒

嬉しいことに冬になると日本酒の消費量が上がり、燗酒のおかげかな、なんて思ったりするわけです。デパートで試飲会をしていると、弊社商品の中では断トツで燗上がりする「生酛純米酒 菊の司 亀の尾仕込」を購入してくださる方がやはり多くなります。しかも1升瓶で。

そういった方たちと話していると、「生酛・山廃はやっぱり燗だよね~」的な声も多く聞こえてきます。まあ言いたいことはわからんでもないなと思いつつ、捻くれてる僕は「全国には冷たくして美味しい生酛・山廃も沢山ありますよ」とイラン事言ってしまうわけです。すいません。

要するに何が言いたいかというと、生酛・山廃、そして速醸というのは醸造手段に過ぎず、酒の味を定義づけるものではありません。しかもそれらはもともと同じ製法からスタートしているのです。

乳酸はお酒のボディーガード

現代の酒造りで主流となっている速醸酛と生酛。「酛」というのは酒母を指しますが、これは雑菌を殺し発酵に必要な優良酵母を増殖させた小さい醪のことです。その後の段仕込みで蒸米・米麹・水が加えられ醪が大きくなっていった時、酒母をしっかり造っていれば醪の健全発酵に繋がっていくわけです。

 

速醸・生酛の違いをざっくり説明すると、速醸酛は既製の乳酸(自社で製造しているお蔵さんもあります)を酒母に添加し利用するもの。生酛は乳酸菌が酒母に入り生成された乳酸を利用するものとなります。

いきなり乳酸が出てきて意味わからん、という人も多くいると思いますが、乳酸は酒造りにとってめちゃくちゃに大事です。乳酸は雑菌を殺してくれる、酒にとっては用心棒的な役割をしてくれるからです。人間で言えば白血球のような存在。

白血球

この乳酸の存在プラス、濃糖状態(薄糖だと雑菌が繁殖しやすいため)の酒母にすることで、酒造りに不要な菌を滅菌し必要な優良酵母だけが純粋に培養された酒母が完成します。

醸造法の違いによって味わいの違いも出てきますが、結局のところ酒母を造る理由というのはその1点しかないのです。そして乳酸の生成が重要なキーとなります。

すべての始まりは奈良のお寺から?

興福寺の僧坊酒について前回のコラムで触れました。

生酛・速醸についても、奈良の菩提山正暦寺で造られていた僧坊酒の「菩提酛」がすべての始まりと言われています。

この時代以前は京都で造られた酒(柳酒)が銘酒の代表格でしたが、段々と全国各地でおいしい酒が造られるようになっていきます。それらは通称「田舎酒」と呼ばれていました。

その中でも奈良の寺院で造られた僧坊酒「奈良酒」が有名で、正暦寺で造られたものが特に知られていました。「奈良漬け」も当時すでに食されていたものなので、これらの酒粕を使って仕込んでいたんですかね…?

奈良漬け

菩提酛は「そやし水」と言われる乳酸発酵液を造ることが大きな特徴です。そう、出てきましたね。「乳酸」です。

菩提酛説明①

そやし水を造るにあたり、まず原料米は炊いた米と生米を上記図のような分量で用意します。生米はしっかり洗米してそのまま水に浸します。

炊いた米は竹籠に入れ、生米を浸している同じ水の中に投入します。竹籠は笊籬(いかき)という名前の道具を使用していたため、菩提酛は「笊籬酛(いかきもと)」とも呼ばれていました。

で、調べていてびっくりしたんですが、この工程に2日間も使うらしいです。まあ乳酸発酵の時間もあるので当たり前っちゃ当たり前ですが、注目すべきは生米の存在。

浸漬していた水がそやし水としてその後の仕込みに使われていく中、生米は用済み…ではなくちゃんと使われます。なんと蒸します。そう、そやし水を造りながら「浸漬」という蒸米前の米に水を含ませる工程も並行していたのです。

菩提酛説明②

現代の酒造りでは10分、長くても20分いかないくらいの浸漬時間なのでだいぶ差があるように感じますが、シビアな水分量を求める麹用の米は別に用意していたみたいです。この米は所謂掛米用ということですね。

科学なんて言葉がなかった時代の人たちが、フィーリングのみでそこまで理解しこの作業をしていたというのは、信じられないくらいすごい話です。

そやし水に先ほどの蒸米と麹をいれ保温しながら7~10日間寝かすと菩提酛完成となります。

菩提酛はなぜ廃れたのか

菩提酛は暑さが厳しい時期に仕込みを行っていました。暑いということは菌たちの動きが活発だということ。現代においては腐造(醪の雑菌汚染)の危険性が高まるため忌避されています。

ではなぜあえて菩提酛においてはこの時期に行っていたのでしょう。新嘗祭に間に合わせるためとかいろいろ考えられますが、発酵という観点から言えば、「速く醸せるから」という点に尽きると思います。

他の菌が活発であるように酵母も温暖であれば活発になりますから、当然発酵は速くなります。加えてそやし水に必要な乳酸菌も活発で、乳酸発酵液をスムーズに造ることができます。菩提酛最大の特徴は速さかもしれません。

ところが明治になると速醸酛が開発され、菩提酛は姿を消します。期間的には速醸も2週間ほどかかるので大差ないわけですが、結局は安定性の違いですよね。

菩提酛は造りごとの菌環境に味を大きく左右されます。ところが速醸は安全な冬に仕込みをできる上に、既製の乳酸を使用するため味が比較的安定します。それだったら当然後者が選ばれます。

そんな中で奈良の大倉本家さんが、この伝統製法を昭和初期から連綿と受け継いできたことが1990年代にわかり、一躍「菩提酛」の名前が全国に知られることとなります。

大嘗祭

神社庁の依頼でやはり新嘗祭に納めるために造っていたようです。酒を味わう上では色眼鏡で見ずに単なる醸造手段の1つとして捉えたい菩提酛ですが、こうした背景を踏まえながら飲んだら壮大な歴史を感じずにはいられませんよね。歴史好きとしては殊更ロマンを感じます。

今回は「菩提酛のメカニズムと微生物の遷移」という論文を引用させてもらっているので、詳細を見たい方はこちらも併せてご覧ください。


菩提酛商品レビュー

菩提酛を使用した酒が気になりすぎて仕事が手につかない!というわけで、お酒を何本か買って家で飲んでみました。老後2000万円問題やら消費増税やら異常気象やら若者忘年会を敬遠問題やら…etc.で、中々に不景気なアルコール業界に微力ながらも貢献です。皆様も何卒よろしくお願いいたします。

今回買ったのは、

・大倉本家「金鼓 伝承水もと仕込み濁酒(秋・冬バージョン)」1800ml
・今西酒造「三諸杉 菩提酛 純米酒」1800ml
・辻本店「GOZENSHU9(NINE)ブラックボトル」500ml

の3本。ちょうど関西出張に行っていたので得意先の酒販店さんや、ネットショップを利用してみました。

気になる味の感想ですが、「これが菩提酛な・ん・で・す!!」という特筆すべき点は、僕の利き酒能力では正直感じ取れませんでした。これが「菩提酛は単なる醸造手段の1つにすぎない」の証明かな、なんて思いつつも…。

しかしながら特筆すべき点がわからなかっただけで、共通項は一応あったように思います。例をあげると「乳酸っぽさ」です。随分とざっくりしていますが、これを端的に言えば「ヨーグルトっぽい」という表現になります。

大倉本家

大倉本家さんの酒がわかりやすくて、王冠を開けた瞬間に立ち香るにおいが、正にヨーグルトを強烈にした感じなんです。第一印象は正直きつい臭いに感じました。

ところが口に含んでしまえばクセになるんですよねえ、面白いことに。甘みに負けない酸がしっかり出ているので、味わい的にもヨーグルトが近いイメージ。単調ではなく、味幅をしっかり感じられる酒でした。

燗酒はまだ試していないので後日やってみようと思いますが、僕のセンサーはピクリともしなかったので、恐らく冷たくして美味しい酒だと思います。

ちなみに大倉本家さんのこのお酒は濁酒、つまり濾していないお酒で、どぶろくと同じジャンルになります。日本酒度や酸度等が一般的な清酒とは大きくかけ離れているため、味わいを単純比較できないことだけは念のため補足しておきます。

みむろ杉&御前酒

今西酒造さん、辻本店さんのお酒については、そういった意味では単純比較できる酒かなあということで選びました。

味わい的にはやはりヨーグルトっぽい風味をほのかに感じ、冷たくしてフレッシュに飲みたくなる酒です。どちらもある程度寝かせてあるものを購入したので、新酒にはないであろう柔らかさ、丸みが感じられました。

ヨーグルトっぽさ=菩提酛らしさなのか

こういった感想を述べている中で考えたのが、果たしてこの特徴が菩提酛ならではと言えるのかという点です。

菩提酛の造りにおける大きな特徴は乳酸発酵液を造ることにあるので、利き酒中はここと味わいがリンクしているのかな、と思いながら味を見ていました。

しかし利き酒の世界においてこの「ヨーグルトっぽさ」は、実は「つわり香」というオフフレーバーに数えられる場合があります。ジアセチル臭などとも言いますが、この香味は発酵が未熟な酒に表れる場合が多いです。

つまり何が言いたいかというと、僕が菩提酛の酒を飲んだ時に感じた共通の風味は、必ずしもその特異な醸造法によって生まれたものとは言い切れないということです。あらゆる呈味成分が複雑に介在し生まれる酒の味わい。個人的にはこうした安易な結論で終わらせたくないと思っています。

一応補足しておきますが、今回飲んだ3商品どれもがおいしい酒でしたし、そのヨーグルトっぽさも好意的に捉えた部分です。つわり香のようなオフフレーバーとは捉えていません。

だけどそれってあくまでも主観にすぎないんですよね。これをつわり香と判断する人も当然いるはずです。そこの感じ方の違いが酒を味わう面白さですよね。

このコラムで何回も書いていますが、文字による定義付けにとらわれず、自分の五感を素直に信じた日本酒シーンでいてほしいなと思います。

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ぼんちゃん

2017年入社。 「人生なんとかなるよ」と言い聞かせ、のらりくらり生きてる。
連載「教科書には載っていない、日本酒の歴史。」では、
誰もが聞いたことがある日本の歴史舞台の裏側、当時の日本酒エピソードをご紹介していきます。

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