生酛(きもと)づくりは微生物たちのオーケストラや!!
生酛(きもと)づくりは微生物たちのオーケストラや!!

2016.11.17

生酛(きもと)づくりは微生物たちのオーケストラや!!

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まいど!ゆーきです。

突然ですが、生酛(きもと)ってご存知ですか??

ちょっと前に流行った時があったので、聞いたことがある人も多いかもしれませんね。

生酛とは、現存する最古の酒母(しゅぼ)の製法です。酒母とは、アルコール発酵の主役である酵母ちゃんを増やす工程で、昔の言い方で「酛(もと)」とも呼ぶんです。

ちなみに今の主流の酒母のつくり方は「速醸(そくじょう)」というのですが、この生酛、速醸に比べて倍以上の時間と手間がかかります。

造る側からしたら、めっちゃ大変な生酛づくり。でも、コアなファンも多い生酛のお酒。

ということで、今回は生酛づくり特集いっちゃいましょう。

 

ふつうの酒母と生酛、何が違うの??

極論、日本酒は全て「甘口」です。

酒母とは、酵母ちゃんを純粋に増やしていく工程です。

仕込みに使うものは、もろみとほぼ一緒で、蒸したお米、米こうじ、水が材料になります。そこへ酵母を入れると、2~3日でぷくぷく発酵がはじまって、どんどん増殖していきます。つまりは、酵母の拡大培養なのです。

しかし、酵母ちゃんたちが十分に増えるまでの数日間、米の溶けたあまーい液体は無防備にさらされています。そこへ空気中をただよう自然菌たちが入りこんでいくと、酵母ちゃんたちが増えるスペースがなくなってしまうのです。すると、もろみの発酵が思うようにいかなくなったり、香りや味がおかしくなる、最悪もろみが腐ることだってあり得ます。

そこで酒母づくりに必要になるのが、乳酸(にゅうさん)。酵母ちゃんは、ある程度の乳酸への耐性があるので、酵母以外の雑菌を乳酸で抑え込むのです。

さて、問題は、乳酸をどこから手に入れるかということです。今だったら、精製された乳酸が簡単に手に入るので、希釈してそのまま酒母にぶち込めばOK。これが、乳酸添加酛、「速醸(そくじょう)酛」ですね。現代の日本酒は、大体がこのつくり方で造られています。

しかし、ちょんまげの時代に精製された乳酸などありません。

伝統製法「生酛」は、蔵に棲み付いている乳酸菌を酒母の中で発酵させることで、乳酸を酒母に取り入れているのです。ヨーグルトなんかと一緒ですね。

 

超複雑かつ多様な菌類たちの活躍によって醸される生酛

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生酛づくりは、蒸したお米、米こうじ、水で仕込み、酵母は最初使いません。もちろん乳酸も。

そして、山卸(やまおろし)といって、仕込んだ米をすり潰す作業をどろどろの状態になるまで繰り返します。これが生酛づくりの一番キツイ作業です。この山卸は、昔の屈強なちょんまげ蔵人にも相当こたえたようで、後の明治時代に山卸を廃止した酛、通称「山廃(やまはい)」が開発され、やがて速醸酛へと移っていくのです。

そうすると、まずは硝酸還元菌やら野生酵母などがわんさか酒母に入りこみます。どんどん糖化していきますから、エサの宝庫なわけです。雑多な菌類は、濃すぎる糖度と硝酸によって居場所がありませんが、硝酸還元菌のはたらきで硝酸は亜硝酸に変化していきます。

そんなところで登場するのが乳酸菌です。乳酸菌が5日目あたりから動きはじめると、代謝する乳酸によって、酒母の中はほぼ乳酸菌だけになります。しかし、乳酸菌は自分が出した乳酸で死んでしまいます。切ないですよね。そうなると、酒母の中は乳酸と糖だらけになり、もはやほとんどの菌類は生存不可の過酷な環境に。

そこで投入するのが、酵母ちゃんです。酵母ちゃんは乳酸耐性があって、糖をもりもり食うのでへっちゃらなのです。

こうして酵母をゆっくり増やしていき、おおよそ30日前後で生酛の完成です。普通速醸なら12日くらいで使えるので、倍以上の時間がかかっていますね。また山卸もあるし、常に雑菌汚染のリスクがあるし、くさいしで生酛は相当な手間もかかるのです。ちなみに、厳密には棲み付きの乳酸菌を使うこのやり方は「生酛系生酛」、山卸を省略したのが「生酛系山廃」に分類されます。

ここに書ききれないほど、たくさんの微生物たちの絶妙なはたらきによって醸される生酛づくりは、まさにオーケストラのようですね。

 

速醸には無いコクが生酛ファンを魅了する秘密

日本酒お燗

このように生酛のお酒は、実にたくさんの微生物たちの協奏によって醸されています。

特に、彼らが代謝するさまざまな酸は、酸味や旨味となり、複雑なコクが特徴です。また、過酷な生酛づくりを生き残った酵母ちゃんたちはめちゃくちゃ頑丈で、もろみ発酵の後半にも死滅しにくいことがわかっています。そのためできあがったお酒は、余分なアミノ酸が少なく、キメ細やかなキレイな後味のものが多いのです。

そんな、うまみたっぷり、後味きれいな生酛のお酒は、お燗や熟成にも向いていることで有名ですよね。お燗については、「そのお燗、やっちゃってませんか??美味しい燗酒の3つのコツ」を。熟成については「日本酒の「熟成」と「劣化」の違い、わかりますか??」の過去の記事もぜひ読んでみてくださいね。

生酛づくりは、期間が長く菌類がたくさん介在するので、蔵元や造りによって速醸以上にまったく違う、バリエーション豊かな酒質になります。ちなみに、うちの「生酛純米菊の司亀の尾仕込」は亀の尾らしい大粒な旨味が特長の素直系生酛です。

 

いかがでしたか??

生酛づくりには歴史ある酒造りのロマンを感じますよね。

腐るかどうかのぎりぎりのところで、きっと先人たちはどきどきしながらお酒を造っていたことでしょう。

もちろん、今はしっかり科学的に分析をして対応しますので腐ることはほぼありませんが、やはり生酛づくりは特別なものです。

ぜひお店で見かけたら生酛のお酒も手に取ってみてくださいね。

では。

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平井佑樹 HIRAI YUKI

岩手県最古の酒蔵、菊の司酒造16代目蔵元(予定)。
地元盛岡で生まれ育ち、明治大学を卒業後ブーメランで蔵入り。
日本酒「菊の司」「七福神」の他にオリジナル「平井六右衛門」を醸してます。
1991年10月12日生まれ。たまの休日は少年野球とデジイチさんぽ。
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