
2019.04.9
どーも!ぼんちゃんです!
相変わらず燗酒ばかりすする毎日ですが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。3月は年度末で多忙な日々を送る方も多いと思います。こんな時こそテキトーに日本酒でも嗜んで息抜きをしていただきたいなと思います。
さて、いつも前置きが長すぎるので今回は早速本題に入っていきますが、燗酒シリーズ第3弾になります。いよいよ本題の歴史の話をしていきますよ!前回は退屈な話を書いてしまったと反省しましたが、今回はスウェット姿で頬杖つきながらご覧いただける内容なので、暫しお付き合いを。
当コラムでよく登場する『延喜式』(えんぎしき)巻四〇「造酒司」に「諸節供御酒器」として、行事に使用される酒器一覧が書かれています。その中には燗つけ用と思われる道具も含まれています。
銀盞一合,金銅酒海一合,金銅杓一柄,金銅胡瓶一口,白銅風爐一具,白銅鎗子一口,朱漆台盤二面,鳥形鎮子八枚,朱漆大盤一枚,朱漆中盤一枚,朱漆韓櫃一合,炭取桶一口
燗に関わるのは酒海(しゅかい)、杓(しゃく)、風爐(ふうろ)、鎗子(そうし)、台盤(だいばん)、炭取桶あたりでしょうか。炭取桶から風爐に炭を入れ、火を起こす。酒海(酒が入った貯めのようなもの)から杓で酒を汲み、鎗子(3本足の鍋)に注ぎ加熱する。加熱した酒は台盤に注がれ振る舞われる。そんな流れを想像できます。
下の絵は年中行事絵巻で描かれている平安時代における宴会の様子ですが、炭の上に3本足の物体が乗っているのがわかるでしょうか。これが恐らく鎗子だと思われます。そしてその鎗子こそが後世まで残る「燗鍋」という酒器に相当するものだと考えられています。
「燗鍋」は直火で燗をつけるための道具です。「…直火かあ」って顔をしながら書いていますが、直火燗は温度・火力の調整が難しい上に、刺激が強いギスギスした酒になってしまいます。あと鉄分も酒にはよくないですし、鍋が焦げ付いたりして風味が損なわれてしまうことも。
まあ結論から言うと「おいしい燗酒を味わいましょう!」というシチュエーションでメリットはあまりないです。長所というと大量の酒を瞬時に熱せられるぐらいのものなので、「気温は氷点下!極寒の屋外で総勢100人参加のBBQ開催!みんなで一斉に熱々の燗酒でも飲んで温まろう!」みたいな場面でなら役立つかもしれません。
先程の絵を見てみるとそんなシチュエーションですよね。寒かったかはわからないですが、大人数で集まって大量に酒を飲むということで言えば、理にかなっているようにも思います。
今は徳利やちろりで温めた燗酒をそのまま盃に注いで楽しむのが一般的ですが、燗鍋の時代は注ぐ酒器と温める酒器が分かれていました。注ぐ酒器のオリジナルと言えるのが「片口」で、水を注ぐために使用していたと思われる木製片口が、弥生時代の集落跡である登呂遺跡(静岡県)から発掘されています。
片口は注ぎ口が片側についていることからその名前がつけられました。そこに蓋や弦が付いて、提子(ひさげ)、そして長柄銚子、燗鍋へと発展していきます。銚子には両口の物もあって、左右の人に一度に注げる利便性によって重宝されていました。「銚子」という言葉自体は現在、酒を注ぐ道具全般に用いられています。次回のコラムで詳しく書きますが、徳利なんかも「お銚子」と呼ばれることがありますよね。
提子は長い弦の持ち手がついたヤカンのような道具で、これがやがて燗鍋へと改良されます。提子は木製か陶磁器製ですが、その素材が鉄に変わっていくことで直接火にかけられるようになりました。それまでは鎗子のような鉄鍋に酒を入れ、直火燗した酒を片口などに移し替えて注ぐのが一般的で、この改良により加熱する酒器と注ぐ酒器が一本化されます。
燗鍋は文学作品にも頻繁に登場してくるほど普及していたようで、浮世草子で有名な井原西鶴も自らの作品にこの名前をよく出しています。挿絵にしっかりその姿が描かれていて、『世間胸算用』では左の人物のすぐそばに取っ手のついた燗鍋を見ることができます。
周りに火の元が見当たらないので、台所で加熱された燗鍋を何にも移し替えずにそのまま持ってきている様が見て取れます。寺島良安が著した『和漢三才図会』(わかんさんさいずえ)という江戸時代の百科事典によれば、燗鍋から銚子に酒を移し替えて注ぐのは卑しい風習とされていたとのこと。なのでこの挿絵に描かれている人たちはある程度しっかりとした身分であることが想像できます。
そんな燗鍋ですが、今では全く見られない通り廃れていきます。理由は大体想像できちゃいますが…。
ていうことで直火燗にチャレンジしてみました。ただガスコンロの上にやかんや鍋を乗っけてもしょうがないので、できるだけ燗鍋が使われていた当時の直火燗に近づけたいと思い、炭火でやります。
鉄瓶も使ってみようと思いましたが、酒にとって鉄は悪影響しかないです。造りにおいては着色や、味・香りが損なう原因になります。水を鉄瓶に入れておくと貧血予防になるなんて言いますが、酒においてはせっかく香りや味わいをうまく引き出したのに、燗つけによってバランスを壊してしまっては勿体ないですよね。
だから今回はステンレスのやかんを使用してみます。底の面積が小さく縦に長い形状で、少量温めるのに適した物を買いました。極力直火部分との接地面積を少なくし、滞留しやすいようにという狙いです。
火力については炭を少なめにしたので、轟々と焚かれている中に放り込むというよりは遠火でじっくりと加熱できる感じにしました。ある程度温度調整が効くようにという狙いです。先述したような大人数で暖を取るための直火燗では向かない方法ですが、今回は自分一人で実験用につけるので、なるだけうまい状態で飲みたいと思いこのような形にしました。
酒に関しては直火燗にしてもふつうにうまいだろうなあということで某お蔵さんのにごり酒と、弊社の「生酛純米酒 菊の司 亀の尾仕込」を用意しました。しかし季節外れの降雪の中での実験になってしまい予定変更。やむを得ず後者のみ燗つけることに。シチュエーション的にはただ暖を取りたいだけの環境でした。
肝心の実験結果ですが、結論から言うとまあまあ美味しくつけられました。直火燗そのものは美味しい燗酒を飲みたい人に対しておすすめしないけど、今回はヤカンの形状も吟味して、尚且つ遠火でやったのでそれなりになったのだと思います。
一方で直火燗が原因かはわからないものの、湯煎よりなんとなく水っぽい味わいがしました。全部で3回ほど実験しましたが、100mlの燗が完了するまでに毎回10分以上かかってしまったので、もしかすると燗つけに要した時間も影響しているかもしれません。
強火でガンガン火が当たれば早く燗はつくけど味はギスギスする。遠火でじっくりやれば味はそれなりになるけど時間がかかる。強火だと味・風味に影響を及ぼすことからこういった条件下で行いましたが、火力・温度調整の難しさがより浮き彫りになった気がします。
燗鍋による直火燗はこういった手間がかかる割に大して美味しいわけでもないため、江戸時代以降衰退の一途をたどります。コンロがない時代は当然炭を起こす手間もあったわけですからね。そりゃ炭火で燗鍋、廃れますよね…。
じゃあ次に何が発明されるかと言うと…。次回は現在使われているメジャーな酒器の誕生を掘り下げていきます。