
2019.09.6
まいど!ゆーきです。
暑い夏が終わったー!楽しかったー、ということで、いよいよ「日本酒の秋」ですよ。
まあ、冬は新酒しぼりたてが楽しめるので「日本酒の冬」だし、春は山菜と花見と出会いと別れで「日本酒の春」だし、なんだかんだ言って燗酒が沁みる「日本酒の夏」ですから、結局のところ一年中日本酒なのです。
じゃあ、秋の日本酒のおいしさって一体何なのか。何だと思います?
ちなみにぼくは「秋においしくない日本酒」は「残念な酒」だと思って酒造りに向き合っています。
「しぼりたてが最高にうまいから、一刻も早く飲んでね!」
とか
「新酒はカタいけど、2~3年寝かせたらうまいから!」
というのも否定しませんが、「新酒もデリシャスで熟成で深い」日本酒が一番イイに決まってる。
お酒というものは熟成を抜きにしては、やはり考えられないなと思います。
最近、それは「鮮度」であって、時が経つにつれ劣化するものであるという考え方が多くなってきていますが、いずれにせよ、日本酒は変化するものなのです。
ぼくは、日本酒が最も大きく変化するのは「新酒(冬)~その年の秋」だと確信しています。
日本酒の変化に影響するものは主に「光」と「温度」。
日本酒に光を当てると、あっという間に劣化します。なので、日本酒をおいしく熟成させようと思ったら、なるべく濃い色の容器に入れたり、新聞紙などで包んで遮光した上で、光が当たらないところに静置しておくのがセオリー。
そして、もうひとつが温度なのです。
貯蔵中の日本酒は、酒の中に含まれている酵母、酵素、有機物(糖分や有機酸類など)が絶妙に混ざり合ったり化学変化を起こしたりすることで香味が変化していきます。
その変化のスピードを左右するのが、温度というわけです。変化がしやすい生酒を冷蔵貯蔵するのは、もはや常識。火入れ酒ですら、冷蔵貯蔵が当たり前になってきています。
ぼくら酒造り関係者の中ではよく「積算温度(せきさんおんど)」という考え方をします。
つまり、昨日「品温5℃」だった酒が今日「品温5℃」だったら「積算温度10℃」というように、1日ごとの品温(≒貯蔵環境の温度)を積み上げていくわけですね。
「搾った後は積算温度が○○度になるとクセが付くから、そうないように低温で貯蔵して早く瓶詰めしちゃおう」「ウチのこの酒は火入れ瓶詰め後の積算温度○○度が飲み頃だな」ということが往々にして議論されます。
酒質が変化する積算温度には「天井」があります。ざっくりグラフにすると、こんな感じです。
一定の数値を超えると、酒質の変化はゆるやかになっていくのです。
そして諸説ありますが「積算温度1000℃」の酒はほとんど別物と言っていいくらい変化しています。たとえば3月くらいに搾った積算0℃の酒を5℃くらいで貯蔵していくと9月くらいに積算1000℃になるイメージですね。
当然ながら、一定の温度で冷蔵できる環境が整った現在は他の期間にも同じことが言えます。10月~3月とか、12月~6月とか。
しかし冬の寒い時期にお酒造りをする「寒造り」がまだまだ主流なので、市場にたくさんの熟成した酒が出回るのは、やはり秋と言えるでしょう。言ってみれば「熟成した新酒」を楽しむ季節なのです。
と、いうことなので。
良くも悪くも大化けした日本酒を楽しむことは、ぼくら造り手にとって楽しみでもあり、ちょっと怖かったりします。
ぼくは「新酒もデリシャスで熟成で深い」が一番イイと思っているので「新酒の時の心地よい香りが崩れてないかなー」とか「変な味が付いてないかなー」とか考えながら、自分の蔵のお酒を味見します。その上で、味のカドが取れて丸くなっていたり、ふわっとふくらむ旨みが感じられると、めちゃくちゃ嬉しい。熟成大成功、というわけです。
新酒を飲んだ酒蔵の「ひやおろし(秋のお酒)」を見かけたら、ぜひ飲んでみてください。新酒を飲んでいなくても、秋のお酒が美味しければ、今度の冬の新酒もきっと間違いありません。そう思います。
秋のお酒は香りと味わいのバランスがまとまっているので、秋の旬と合わせて食中酒として楽しむのがおすすめです。
秋においしい食材と言うのは幅広く、また、最近は秋のお酒が9月初旬くらいには出回るので晩夏の食材も楽しめ、二度おいしい。サンマ、カツオ、木の実系(銀杏や栗)、キノコ類や根菜類など秋の鉄板は当然のことながら、アユやハモ、ウニ、タコなどの夏の魚介シリーズや枝豆、トウモロコシなんかの甘味もうまい。
散々書きましたが、秋のお酒は「熟成して完成度が高まったお酒」でもあるので、まあ、ふつうに「うまい酒」なのです。特別じゃなくても、いつもの食卓を一層盛り上げてくれるお酒です。
ちなみに、「ひやおろし」とか「秋上がり」的な表示が無くても、冬に造ってひと夏越えた日本酒はその辺にたくさんあります。
そういう意味でも、秋は日本酒パラダイスです。まさに「日本酒の秋」なのです。
ウチの季節商品シリーズ「季楽(きらく)」の秋酒です。
季楽のお酒は全部「ひとめぼれ」などの飯米を使用して、同じ米、同じ精米歩合、同じ酵母で書いたレシピをそれぞれの季節感に合わせて造り分けをしています。
秋の「茜(あかね)」ちゃんは、香りふんわり、旨みふんわり、後味スカッとしたイメージで、ちゃんと酸の効いた菊の司らしい味わいになっています。特にビギナー向けに造っているわけでもないのですが、意外とおじさま方からの評判も良い季楽シリーズ。そういうものですかね。おすすめです。
ずっと二十数年お世話になっている、石巻市の太田俊治さんにつくっていただいた自然栽培米「亀の尾」で仕込んだ生酛(きもと)純米酒。
お燗向けで紹介することも多いこのお酒ですが、冷や(常温)でも全然うまい。旨いのにさらさらしてるから、ついつい盃が進んでしまいます。
海とか花火とかBBQとか、夏にはしゃぎ疲れて、しっぽり飲みたい人におすすめです。
平井六右衛門シリーズの純米酒。遊山(ゆさん)も生酛純米酒です。
特に平六(ひらろく)シリーズは「新酒もデリシャスで熟成で深い」というぼくの想いがたっぷり込められているので、ぜひ秋の晩酌にオトモさせてください。バナナとかモモっぽい香りと、甘味、酸味を楽しむお酒です。
ラベルが「アイアンマン」ぽいと言われます。
いかがでしたか。
日本酒の秋がいかにパラダイスか、少しでもご理解いただけたら幸いです。
日本酒の冬はすぐにやってきます。
迷っている時間はありません。ぜひ、秋の晩酌をお楽しみいただければと思います。
では。
岩手県最古の酒蔵、菊の司酒造16代目蔵元(予定)。
地元盛岡で生まれ育ち、明治大学を卒業後ブーメランで蔵入り。
日本酒「菊の司」「七福神」「平井六右衛門」を醸してます。
1991年10月12日生まれ。たまの休日はデジイチさんぽ。
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