字に学ぶ!粋なお酒の呼び名のはなし
字に学ぶ!粋なお酒の呼び名のはなし

2018.11.16

字に学ぶ!粋なお酒の呼び名のはなし

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こんにちは!インターンシップ生の風香です。

街中の木々も朱く染まり、秋の深まりが感じられる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?

私が住むここ鶴岡では、前回のコラムでも紹介した「菊」が最盛期を迎え、市内でも菊花展が開催され賑わいを見せています。

■不老長寿の菊で秋を祝おう!重陽の節句のはなしhttp://www.kikunotsukasa.jp/column/archives/1931

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さて今回のリケジョのコラムは、読書の秋にちなんで秋の長夜に是非読んでいただきたい小説と、そこに出てくる「酒の異名」にまつわる話をしたいと思います。

水鳥、桜に舞う

さてみなさん、香月日輪著「大江戸妖怪かわら版」という小説をご存知でしょうか?

現代世界から妖怪や魔人の住む異世界「大江戸」に落ちてきた少年、雀の日常とその成長を描いたこの作品は私が小学生の時から愛してやまない小説です。児童文学でありながらジェンダー、モラル、地域社会との関わり方など様々な面で現代を生きる我々にも肉薄した問題について深く考えさせられる、大人にも是非読んでもらいたい一作でもあります。

大江戸妖怪かわら版2

最近では同筆者の「僕とおじいちゃんと魔法の塔」、「妖怪アパートの幽雅な日常」などの漫画化、アニメ化も行われていますので、そちらのほうなら知っているという方も多いかもしれませんね。

今回紹介するのは、大江戸妖怪かわら版シリーズの3作品目である「天空の竜宮城」より「水鳥、桜に舞う」。

仕事仲間と共にお花見に来ていた雀は、酔っぱらった大蛇の妖怪と、彼に絡まれてしまう少女に出会います。少女をかばう雀に対し、大蛇の妖怪は「女の代わりにてめぇがケジメをつけてみせろ」と大きな長柄になみなみと酒を注ぎ、これを飲み干せたら許してやると持ちかけました。

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絶体絶命となった雀、いざ覚悟して長柄に手を伸ばしたその時、彼の前に救世主が現れます。大江戸きっての女型歌舞伎役者、蘭秋大夫が雀の代わりに勝負を受けようというのです。

蘭秋大夫はその体のどこに入るのかという量の酒を次々と飲み干し、仕舞には蛇男を酔い潰し、見事勝負に勝ってみせたのでした。そう蘭秋こそ、大蛇も真っ青の水鳥だったのです。

負けた大蛇はこれに恥じて禁酒を誓い、蘭秋の歌舞伎座ではこの勝負を題材にした演目が人気を博し大江戸中で話題となりました。

 

さあさあさあ、上下そろって事明細だよ!桜の森に、艶やかに水鳥が舞ったよ!

それは、なんとあの日吉座の人気役者。芍薬、牡丹、百合、蘭秋と言れる蘭秋大夫だ!

蘭秋が桜の森を舞台に、どんな役を演じたのか、知っとかなきゃあ、大江戸っ子が廃るってもンだ!さぁ、買った買った!

雀も負けじとかわら版を売りさばき、かくして蘭秋大夫の噂は大江戸を軽く飛び越えて、地方に存在する「天空の竜宮城」まで響いてゆくのでした。

 

さて、この物語の続きは実際に皆様に確かめていただくとして、蘭秋大夫の雄姿に例えられた「水鳥」とはいったい何なのでしょうか?

集え呑み助!大師河原慶安酒合戦

「水鳥」という漢字を見たとき、何を思い浮かべるでしょうか?鴨やアヒルなど水辺の鳥をイメージする方が多いのではないでしょうか。この字、実は「スイチョウ」と読むことで「酒、酒豪」を意味する言葉でもあるんです。

酒

サンズイ(水)に酉(鳥)という成り立ちより「漢字」から取った異名にあたります。三座筆頭蘭秋大夫が「水鳥」に例えられたのも、大蛇をも飲み潰すほどの酒豪だから、ということになります。

この飲兵衛を現す「水鳥」という言葉の由来は、今から約360年前の慶安二年、川崎大師河原(現在の神奈川県川崎市)の名主である池上太郎右衛門幸廣(いけがみたろうえもんゆきひろ)とその一族 14名、江戸の儒学者の茨木春朔(いばらきしゅんさく)率いる 16名の仲間との間で行われた酒飲み合戦にあります。この酒飲み合戦に参加する酒豪たちはそれぞれ「水鳥名」という蛇や樽、枠、呑などいかにもたくさん酒を飲みそうな漢字を使ったリングネームを名乗り、倒れるまで酒を飲み続ける試合を行ったそうです。

当時の様子は「水鳥記」という仮名草子にまとめられており、また現在でも舞台となった神奈川県川崎市で10月に行われる「水鳥の祭り」を見たり参加したりすることが出来ます。(くれぐれも飲み過ぎにはご注意を!)

酒は「酒」だけにあらず

日本では明確に判明しているものだけでも500を超える「酒の異名」が存在しているといわれています。

例えば、先ほど紹介した水鳥や酉水などは、酒という字から連想される「漢字」としての異名です。日常生活でもよく耳にする百薬の長、福水、百毒の長、狂水などは人体への効能を捉えた「褒め言葉・けなし言葉」が由縁となっています。

他にも、赤馬、桜、般若湯など仏教、浄瑠璃や能における「隠語」や酔った様子や酒そのものに現れる「色」からとった赤、山吹、白杜。聖人、賢人、太平君子など過去の偉人やその土地縁の人の名前を用いた「擬人法」としての異名なんてものもあります。

中でも群を抜いて多いのが「隠語」と「漢字」としての異名です。過去どの時代においても宗教的に禁止されていたり、贅沢品として消費や製造が規制されることが多かった酒。如何にして飲むかと知恵や頓智を利かせた工夫の跡が、粋な名称として現代にも深く息づいています。

身近なところで言えば、宮城県角星酒造の「水鳥記」、秋田県鈴木酒造店の「賢人」同じく秋田県金紋秋田酒造の「山吹」などは酒の異名を用いた銘柄だといえるでしょう。案外身近なところにあふれている「酒の異名」…秋の味覚を楽しむついでに、ちょっと探してみるのも面白いかもしれませんね。

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文字とお酒の話、いかがだったでしょうか?冒頭に紹介した「大江戸妖怪かわら版」シリーズには酒だけでなく、巧みな文章でこちらの胃袋を刺激する素敵な料理やツマミの話もたくさん出てきます。お腹を空かせながら是非読んでみてくださいね!

それでは、今回はこのあたりで。次回もまたよしなに。

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片岡風香

山形大学農学部食料生命環境学科4年インターンシップ生。
普段は植物の生育コントロールについて大腸菌や酵母の遺伝子組み換えを用いた実験を日夜行う根っからの理系ですが、本コラムでは歴史や文化、古典、時々科学をまじえながら「食卓の外の日本酒の話」をしていきたいと考えております。

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