
2019.05.15
まいど!ゆーきです。
突然ですが、辛口と甘口のお酒、どちらがお好きですか??
「辛口じゃない日本酒は認めん!」っていうおやっさん。
「カクテルも酎ハイも日本酒も甘口が好き!」っていう女子大生。
いろんなお酒がありますから、それぞれ好みがあるのは当然でしょう。では、質問を変えます。
あなたが好きな「辛口」のお酒は本当に「辛口」ですか??
あなたが好きな「甘口」のお酒は本当に「甘口」ですか??
ということで、今回は日本酒の甘辛についておさらいしていきましょう。
日本酒の甘辛を語るには、まずは日本酒の造り方を説明しなければなりませんね。スーパーざっくりまとめると、
①米のデンプンを糖に分解する
②糖をアルコールに発酵させる
以上です。つまり、基本的なアルコール発酵の原理からすると「糖化」と「発酵」だけで酒はできてしまうのです。こだわりや技術はあくまでプラスアルファの部分であって、それらが不可欠なものであったなら、弥生時代に「口かみの酒」は生まれません。
酒造りとは、酵母のアルコール発酵のためのエサである糖を大量に準備し、発酵させてアルコールに変えるということなんです。この大原則はどんなお酒もおんなじです。ワインもビールも。
さて、このめちゃくちゃざっくりした工程説明の中に、甘いものがすでに登場していますね。糖です。
繰り返しになりますが、お酒の発酵というのは、酵母が糖をエサにアルコールを代謝することです。
日本酒のもろみは3週間強かけて発酵していきますが、たとえば大吟醸酒の場合、初期の糖濃度は7%ぐらい。それが出来上がりのころには2%前後まで減ります。
大吟醸酒を飲んだ時にフルーティで甘く感じるのは、香りの影響ももちろんありますが、実際に糖分が比較的多く含まれていることが多いからです。
酒蔵によって考え方がありますが、大吟醸酒でも糖分が1%未満になるまで発酵させる方針の蔵もあれば、逆に純米酒でも糖分を2%以上残すように発酵させる蔵もあります。どちらがどう、ということはありませんが、少なくとも特定名称(「純米大吟醸」とか「本醸造」などの分類上の呼称)によって辛口か甘口かを判断することは難しいと言えるでしょう。
よく、本醸造は辛口、というお客さまもいらっしゃいますが、そうとも限らないのが現実です。
日本酒の発酵の話に戻ると、仕込んでからいわゆる前半のもろみはめっちゃ甘いです。
おおよそ仕込んでから5~7日目くらいまでは、酵母のエサを用意するためにどんどん糖化させていく期間ですが、日本酒度で言うと「-60」「-50」くらいまで甘くなります。日本酒度の説明は後程しますが、この段階ではマイナスに行けば行くほど甘い、と考えていただいて間違いありません。とにかく、麹のチカラで米のデンプンをブドウ糖に変えていくのです。
酵母が動きはじめると、糖分をエサにしてアルコール発酵を始めるので、日本酒度が「-45」「-30」というふうに変化していきます。つまり、糖分がそれだけ減っている、ということですね。
最終的には「-5」から「+5」くらいの間でもろみを搾ってできあがり、というのが一般的でしょうか。
つまり、日本酒の辛口と甘口とは、お酒の中の糖の量に依存します。つまり、「甘いか甘くないか」なのです。
ちなみにアルコール分であるエタノールは刺激物ですが、実は味覚的には甘く感じます。
お気付きでしょうか??
日本酒に「辛い」ものは入っていないのです。
じゃあ辛口なんて言うなよ!ややこしいだろ!
まったくその通りなのです。
ウチの商品にも辛口をうたっている商品はあります。実際は「甘いもの」の反対に「辛いもの」であって「HOT(辛口)」ではなく「DRY(辛口)」なのです。
甘辛の目安に「日本酒度」というものがあります。プラスが辛口、マイナスが甘口、といわれているアレです。
この日本酒度、本来は味わいの指標ではなく、先ほど説明したように発酵の経過を測定し、もろみを搾るタイミングを計るためのものです。
ウチでは専用の分析用の機械を使って計測しますが、重りのついた浮標(ふひょう)を試液に浮かべて液体の比重を測定したりします。要は、液体が水と比べて重いか軽いかということです。
たとえばコーヒーに入れた角砂糖がカップの底に沈むように、糖は水より重い物質です。ということは、糖がたくさん溶け込んでいる酒は水よりも重い液体なので、浮標が浮かび、目盛はマイナスになる。「甘い=重い=日本酒度マイナス」ということになります。
ですから、日本酒度がマイナスのお酒が甘口ということはあながち間違いではありません。
問題は「辛口」の場合ですよね。
アルコール(エタノール)は水より軽い物質なので、仮に水とエタノールを混ぜ合わせた液体の日本酒度を計測すると、めっちゃプラスです。ちなみにアルコール添加で使用する醸造用アルコール(アルコール分30%)の日本酒度は「+50」くらいです。
もろみで糖化させた糖分を消化してアルコールに発酵させていき、最終的に糖分が少なければ日本酒度はプラス側になります。
もし、「アルコール分15.0%」「糖以外の成分組成がまったく一緒」のお酒が2種類あったとして、片方が「糖分2%」もう一方が「糖分0.5%」だったとしたら、もちろん前者が甘口で後者が辛口です。そして、日本酒度を計測すると前者がマイナス側、後者がプラス側、ということになります。
繰り返しになりますが、あくまで「甘いか甘くないか」に過ぎないのです。
日本酒を扱うプロがお客さんに言われて一番困るのがたぶん、「辛口の酒ください」だと思います。次が「飲みやすい酒ください」でしょう。
ちなみに、日本酒に含まれる味覚成分は世界のお酒で断トツで多いです。ワインの倍はあるともいわれています。日本酒の味わいを左右するのは糖分とアルコールだけではなく、むしろリンゴ酸やコハク酸、乳酸などといった有機酸や、さまざまな香りの成分の方がダイレクトに印象を左右します。
もちろん人それぞれに好みはありますが、単に「甘口」「辛口」でお酒を評価できるはずもなく、実は非常にもったいないことをしているかもしれません。
「辛口のお酒をください」と頑なに言われてしまえば、お店の人は、客観的に「辛口のお酒」を提案する場合が多いと思います。
酒蔵によって甘辛に対する考え方はさまざまです。特に統計があるわけではありませんが、全国津々浦々のお酒を並べたら、圧倒的に「甘い」お酒が多いはずです。
なぜかというと、いわゆる酒蔵が言うような辛口のお酒というのは、実は技術的なハードルが高く、特に純米つくりでは量産するのが非常に難しい。
酵母が弱らずに目的の酒質まで発酵できるか、また、できあがったとしても味わいがまとまるまで熟成させなければならないかもしれないのです。
最近は特にフルーティでフレッシュな酒質がブームということもあり、甘口ながらもキレのよいお酒がどんどん増えています。日本酒の醍醐味のひとつである多様性を自ら狭めてしまうのは、非常にもったいないことだと思います。もしかしたら、本当に好きなお酒が実は辛口ではなく甘口で、とか、その逆もあるかもしれません。
自分の好みのお酒に出会ったら、覚えておくことが大事です。
産地、銘柄、特定名称、お米、精米歩合、日本酒度、酸度…などといったいわゆるスペック的なところとか、どんな香りがしたか、味わいは…的な印象を何かしらで記録しておくことをおすすめします。香りや味わいの印象は何かに喩えて表現すると後で思い出しやすく、ぼくらが利き酒をする時や、ワインのソムリエさんがテイスティングする時にも使っている方法です。
Instagram(インスタグラム)やtwitter(ツイッター)に備忘録的に投稿しておいてもいいし、SNSが煩わしいなら手書きのノートでももちろん、日本酒アプリなるものもあります。
■日本酒ノート|Sakenote http://sakenote.com
■さけのわ https://sakenowa.com/
■Sakenomy http://www.sakenomy.net/
こうやって自分の日本酒の好みがわかってくると、酒屋さんでお酒を購入する時や、飲食店さんでお酒をオーダーする時に役に立つでしょう。
あとは、せっかくおすすめしてもらったお酒は美味しく飲むことです。
結局、お酒の味わいって人の好みなので、どんなプロの人でも自分がおすすめしたお酒を気に入ってくれるかどうか、内心めちゃくちゃ不安です。「キリッとした酒です」って店員さんが持ってきてくれたら、キリッと飲み干せばいいんです。その上で、心の中で自分なりに好みのタイプと比べてみれば良いのです。
いかがでしたか??
ぼくは酒の好き嫌いがあまりないので、この手の説明が一番苦手です。
辛口甘口で好き嫌いしないで、ぜひいろんな日本酒を飲んでみてくださいね。
では。