
2016.09.17
まいど!ゆーきです。
日本酒の楽しみ方のひとつに、熟成というものがありますよね。
「新聞紙に包んで大事に熟成したお酒を昨日開けてみたんです!」
「生原酒のナマ熟(注:生酒の熟成のこと)が最高に美味しいんだよね!」
「このお酒はまだ若いなあ…うちで熟成させるから1本ちょうだいよ!」
どこのイベントに行っても、必ず「熟成マニア」のお客さまがいて、楽しそうに語る姿はまさにホンモノの酒好きです。ついついこちらもアツくなってしまいますよね。
酒蔵はもちろん、お店でも個人でも熟成は自己責任です。自由に楽しみたいものですが、残念ながら、ただの劣化した酒も中にはあります。
ということで、今回は日本酒の熟成と劣化の違いをおさらいしていきましょう。
“熟成(じゅくせい)
自然に含まれる酵素、あるいは細菌の酵素などを利用して、食品にうま味や風味を出す、柔らかくするなど、品質を向上させるための工程をいう。熟成させることを「ねかす」ともいう。英語では一般にエイジングagingという。食品中にはタンパク質、脂質、繊維、糖質などが含まれるが、これらが酵素により、ゆっくりと変化し、各種の味や香りの成分を出し、組織を軟化させるなどする。熟成はゆっくり行わせるほうが、風味のよい食品ができあがる。そのため、低温にする、食塩やアルコールを加える、といったことも行う。また、発酵製品では、主発酵が終わったのち、さらに静置して味をならすのも熟成という。清酒、ビール、ワイン、みそ、しょうゆ、酢、チーズ、塩辛のような発酵品、ウイスキー、ブランデーのような蒸留酒、こねた小麦粉の生地(きじ)、食肉など、多くのものにこの熟成の工程がとられ、品質の向上が図られる。[河野友美・山口米子]『佐藤信監修『食品の熟成』(1984・光琳)』
”
長いですよね。
“商品の仕上げ=熟成”
これでOKです。要は、商品としての完成度を高めることなのです。
何が言いたいかというと、熟成というのは特別なエッセンスでもなんでもなく、酒造りの一部だということ。搾った後の熟成も含めて、日本酒は組み立てられているのです。
引用にも書いてありますが、熟成の主役は酵素(こうそ)です。ややこしいのが、酵素は酵母(こうぼ)とは全く別物で、しかも生き物ではありませんから覚えておきましょうね。酵素はたんぱく質で構成されていて、それぞれ特定の物質を分解させることができますが、65℃以上で機能しなくなってしまいます。このため、火入れまでのナマ熟期間がとっても重要なのです。最近はこの期間をなるべく短くした、フレッシュなお酒が多いですよね。
酵素が失活した火入れ後のお酒も、やはり変化が進んでいきます。お酒に含まれるさまざまな成分がお互いに影響して、絶妙にバランスが変わっていくのです。
熟成のおもしろいところは、同じ原酒でも貯蔵環境によって全くちがう熟成をすることです。なんだか人間みたいですよね。ぼくは年齢の割にたくさんの方とお会いしてますが、環境が人間性に与える影響というものは凄まじいなあと感じます。ぼくはよく30歳くらいに見られることが多いです。なんででしょうね。
話が逸れましたが、温度と容器は特にチェックしたいポイントです。
まず、温度。部屋に放置した牛乳と冷蔵庫に入れた牛乳、どちらが早く腐るでしょう。言わずもがな、ですよね。
物質によりけりですが、基本的に温度が高いほど反応が盛んになります。65℃でたんぱく質は変性しますので、日本酒が一番変化しやすいのは40~55℃くらいというのが一般的。だから、火入れ後に急冷してその温度帯をなるべく避けたいわけですよね。常温熟成されたお酒は熟成のスピードが速く、味わいも濃くなります。冷蔵熟成はその逆ですね。
また、容器で特に大切なのは空気に触れている面積です。
たとえば、同じ量のお酒を底の広いタンクと細高いタンクでそれぞれ熟成させると、どちらが良い熟成酒になるか。答えは細高いタンクです。空気に触れる面積が少ないということは、酸化が少ないということです。後述しますが、この酸化は「劣化」の2大原因のひとつです。熟成されたお酒はナッツやカラメルのような独特なコクと深みがありますが、劣化したお酒を一言でいうと、くどくて辛い。個人的な感覚ですが、味が重いわりに余韻がないのです。ですから、飲みかけ半分しかないようなお酒を熟成といって放置するのは、ぼくはあまりおすすめしません。
ビン熟成の商品なら、初心者にも親しみやすい軽やかな淡熟型の古酒が多いです。タンク熟成の場合、赤黒い濃厚な古酒が多いので、どちらかというと玄人向けですね。
先に言っておきたいのは、よほどでない限り劣化して飲めない日本酒なんてありません。
酒を愛している酒蔵やお店なら、大丈夫。むしろ、悪意を持って虐待しないかぎり日本酒ってグレない。本当に健気な子です。
日本酒が劣化した、と断言できるのは菌に侵された時と酸化した時です。
酒の中は、菌類にとってかなり過酷な環境です。発酵してくれる酵母ですら、自分が出したアルコールに耐えることができません。悲しいですよね。ただし、「火落ち菌」と呼ばれる乳酸菌の仲間は酒の中で増殖することができるのです。火落ち菌はそこら中に棲息していますが加熱(火入れ)でしか退治できません。たとえしっかりと火入れを施しても、冷めた後に何度も空気にさらしたり詰めるビンの殺菌が不十分だと台無しです。火落ち菌に侵されたお酒は、特有の酸臭とヨーグルトのような香り、ざらつき、またキラキラと白い線状の滓がみられます。健康には無害ですが、残念ながらこれは劣化です。
やはり酸化も気をつけたいところ。
ビンの半分以下まで飲み進めたら、1週間以内にはぜひ飲んでしまいましょう。その間、冷蔵保管もお忘れなく。また、最近は日本酒を多く品揃える飲食店さんも増えてきましたが、あまりに種類が多すぎて、開封後日が経つお酒があるかもしれません。せっかくお金を払って飲むのですから、不安な時は訊ねてみても失礼ではありませんよ。もちろん人気商品の可能性もありますから、聞き方には注意しましょう。
いかがでしたか??
熟成の世界が見えてくると、もっともっと日本酒が楽しくなります。
フレッシュピチピチもいいけど、たまには落ち着いてよく熟成した日本酒を楽しんでみては??
では。