短気は「好気」!?稀代の発明「炭素ろ過」をひも解く
短気は「好気」!?稀代の発明「炭素ろ過」をひも解く

2019.12.6

短気は「好気」!?稀代の発明「炭素ろ過」をひも解く

このエントリーをはてなブックマークに追加

RSS

tbnr_nihonshu_history

どーも!ぼんちゃんです!

11月をすぎると各蔵から新酒が続々と発売されます。フレッシュでシュワシュワとしたガス感があるしぼりたて新酒はこの時期しか飲めないので、地球上で一番好き!待ちきれない!!という人もいるのではないでしょうか。

そういったお酒のラベルをよく見てみると、「無濾過生原酒」という文字が書かれている場合が多いです。なんとなく「純真無垢、ピュア」を想起させるような言葉ですよね。

「無濾過」も「生」も「原酒」も、それぞれある工程がされていないことを表しています。その意味がわかれば、これから口にする新酒がより特別なものに感じられるかもしれません。

しぼりたて

「酸のある酒」と「酸っぱい酒」

日本酒のスペックと言えば、「精米歩合」や「アルコール度数」を連想する人が多いと思います。

ラベルのこれらを見ただけで中身の酒質を理解することまではできませんが、「40%まで削っているからすっきりしているのかな」「アルコール度数強めだから飲みごたえあるかな」など、簡単な部分で酒を選ぶにはとても有効な数字だと思います。

他には蔵によって「酸度」というものを表記している場合があります。酸は日本酒の味わいを形成する大切な要素で、以前のぼんちゃんコラムでも有機酸と温度の関係性を解説しています。

 

ところで「酸」と聞くと、大抵の人はお酢やレモン、あるいは梅干しを想起させるような、「酸っぱい」イメージを思い浮かべるはずです。僕も日本酒を飲み始める前はそうでした。

しかしご存知の通りで、「酸っぱい」酒というのはほとんどないですよね。「ちょっと酸が効いてるね」みたいな酒はあっても、口がアスタリスクになるような酒はないはずです。

すっぱい

先ほどお酢を例に出しましたが、あの酸味は「酢酸菌」という微生物が生み出しています。日本酒の場合、この菌が醪に入ってしまったら「腐造」となり、その酒が世に出回ることはありません。

その他の要因でも「酸っぱい」と言われてしまうような酒は、基本的に酒造りに必要ではない菌が無駄に活躍した結果と考えられます。

酒造りの技術発展は、こうした酸っぱい酒との闘いとともに進んできたと言っても過言ではありません。

酒に炭を入れる⁉

「酸っぱい酒」の解消のために考案された最初の試みと言えるのが、現代で言う「炭素ろ過」です。出来上がった酒に炭を入れる作業、というと「なんか汚い」みたいに思う方がいるはずですが、酒造業界では昔から一般的に行われていました。当初は酸を灰で中和するために行われていたと考えられています。

木炭

研究が進んだ現代では「炭素ろ過」と一口に言っても種類が様々で、脱色、雑味除去、異臭除去など目的は多岐に渡ります。

醸造過程や貯蔵で生まれたオフフレーバーを筆頭に、蔵が意図しない色・香り・味わいを除去することができます。酒質の再現性を高める工程と言えばわかりやすいでしょうか。

炭を入れると言っても木炭みたいなものを入れるわけではなく、パウダー状の炭を投入します。異臭成分や着色物質を吸着させ、その炭をろ過器で取り除くところまでを炭素ろ過と言います。

普段飲みで愛飲していただく、経済酒と呼ばれるようなジャンルにおいて、この工程は特に有効です。いつもの味を楽しみにしてくださるお客様にいつもの味をお届けするのも酒蔵の役目ですからね。

そういった中で菊の司酒造の酒は、昨年度の造りから炭素ろ過無し、いわゆる「無濾過」の商品が増えてきました。これは単純な話、炭素ろ過を必要としない酒造りをしているからです。

上槽から火入れまでの工程の迅速化、タンクではなく瓶での酒の貯蔵など、蔵として意図していない味・香りがつかないよう、色々な工夫があります。

「炭を入れること自体が悪いことではない」というのを前提として、醸しあげた酒が本来持つピュアな味わいを楽しんでいただきたいという理由から、こういった取り組みをしています。

先程「意図しない」という言葉を使いましたが、結局はこれが重要だと思います。上槽から瓶詰・火入れまでの期間をあえて長くしている酒蔵もありますし、その工程に意味があっておいしい酒が造れていれば問題はないのです。

試飲会などに立っていると「アル添」と同じくらい、炭素ろ過を一般消費者の皆様が悪い意味で意識してしまっているなあと感じます。

 

しかし「ちゃんと理由があって、ちゃんと造っている」蔵の酒は、アル添していても炭素ろ過をしていてもおいしいです。言葉では味を判断できないのでまずは試してみてから。

「黒い酒」

炭素ろ過の歴史を語る上で外せないのが、ぼんちゃんコラムでも過去に取り上げている大嘗祭の「黒貴」です。

 

黒貴の正体に関しては諸説ありますが、共通項として「久佐木灰を入れた酒」という点が挙げられます。この久佐木がシソ科クサギ属のクサギ(臭木)を指すのか、あるいは草木の灰を指すのかで解釈がわかれるところです。

前者の場合は葉を茹でて食用にする場合もあるそうですが、いずれにせよ何のために灰を入れるのかという点においても議論がわかれます。先程リンクを貼ったバックナンバーでは、「着色のため説」を有力なものとして取り上げました。

当時の現物を見ることができないので、どの学説も正解と言い切れません。ただ僕なりに考えたところ、やはり酒の香味・味わいによる部分が大きいと思います。

単に色をつけるためなら別に灰じゃなくてもいいわけで、灰を入れる前の「白貴」と灰を入れたあとの「黒貴」の味わいに、決定的な違いがあったのではないかと思うわけです。わざわざ2つ用意するところがミソじゃないですかね。

怪我の功名…??

またこの炭素ろ過の歴史を語る上で外せないのが、鴻池家に伝わる説話です。

摂陽落穂集

国立国会図書館WEBページ 『新燕石十種』第5巻より引用

鴻池家というと大坂の豪商として日本史の教科書に出てくるくらい有名な一族です。彼らは元々現在の兵庫県伊丹市で酒造業を営んでおり、ここで紹介する説話はその当時の話です。

簡単に説明すると、根性の悪い男が当時番頭をしていて、主人にイライラした彼は何か仕返しをしてやろうと裏口で見つけた大量の灰を酒の入った木桶にぶち込みました。

そんなことをされているとは露知らず、主人が柄杓で酒を汲むと、昨日まで濁り酒だったものが澄み酒に変わり、おまけに香味までよくなっていました。

鴻池家はこれを秘伝の奥義とし、瞬く間に商売繁盛。豪商として成り上がっていきます。偶然の産物の炭素ろ過で豪商になったなんてすごい話ですよね。

この話で注目すべき点は、灰をいれたことにより濁酒が澄酒に変わった点だと思います。現在でいう清澄剤の役割を果たしたと考えられます。

酒には搾る際に除去しきれなかった、デンプン・タンパク質分からなる「滓(おり)」という物質が含まれています。これを取り除く工程を「滓引き」といいます。

滓引きの方法として、酒を冷やし滓を沈殿させ分離するやり方と、清澄剤を使うやり方の2種類があります。

前者をイメージしづらいという方は是非、当社の「菊の司 季楽 純米新酒 美雪」を購入してみてはいかがでしょうか(唐突な宣伝)。

miyuki2019

この酒は通称「おりがらみ」というタイプの酒で、あえて滓を残しなめらかな飲み口を楽しんでいただこうという商品です。

 

この酒が入った瓶を振動などがおきない場所に置いておくと、底に滓が沈殿していきます。例えばこれを加熱した場合は対流するので、滓が舞い上がって霞んだ見た目になります。これがまさに酒の貯蔵タンクの中で起きている現象です。

清澄剤はこれを手助けするものと考えていただければ良いと思います。なくても滓引き自体はできますが、より徹底的にかつ迅速に作業を進めるための助剤という感じ。

今となっては澄んだ酒が当たり前ですが、灰を清澄剤として使う方法は、当時濁酒が一般的だったためにとても革命的な出来事だったようです。この不思議な酒は民衆から支持されるようになり鴻池家は繁栄していくわけです。

最後に

拙い文章でしたが、「ろ過」という工程の歴史についていくらかはご理解いただけたでしょうか?

もう一度強調しておくと、この工程をしていない酒こそが至高というわけではありません。ろ過も含めその酒を作り上げるための工程すべてに明確な狙いがあって、それが意図した形として商品に表れているかです。

工程自体に酒の味を体系的に分類する意味は含まれていません。嗜好品ですのでそれを踏まえ皆さんがどんな酒が好きと思うかは自由ですが、それだけは言及させていただき終わりとします。

このエントリーをはてなブックマークに追加

RSS

おすすめ記事

こちらも要チェックです!

他のスタッフこらむはこちら

questionnaire

短気は「好気」!?稀代の発明「炭素ろ過」をひも解く
ぼんちゃん

2017年入社。 「人生なんとかなるよ」と言い聞かせ、のらりくらり生きてる。
連載「教科書には載っていない、日本酒の歴史。」では、
誰もが聞いたことがある日本の歴史舞台の裏側、当時の日本酒エピソードをご紹介していきます。

← 一覧へもどる