2020.05.14

仕組みが分かればもっと面白い!清酒酵母と機能性のはなし

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こんにちは!菊の司酒造花粉被害者の会会長の風香です。

スギに加えてシラカンバの花粉が猛威を振るう今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?私はダメです。

ところでみなさん、先月公開されたさおりんさんのコラム「日本酒を擬人すると?バナナスイーツに日本酒を合わせてみた」は読みましたか?

花粉症で鼻が詰まってる私には難易度が高いですが、日本酒の香りについて分かりやすく書いてありますので「日本酒の香りが苦手!」という方は是非読んでみてください。自分にマッチする日本酒選びの手助けになること間違いなしです。

さて、今回のコラムはさおりんさんのコラムにも出てきた「酵母」のはなし。最近、不思議系だの花粉被害者の会会長だの揶揄されてリケジョ要素が薄くなってきた理系風香が、化学の視点から見た「理屈が分かればもっと面白い」酵母の生態をご紹介します。

そもそも「酵母」ってなに?

皆さん、酵母ってどういうものか説明できますか?

酵母というのは一般に、食品などに用いられる出芽酵母を指す総称です。日本酒の醸造では「糖を食べてアルコールを代謝する」という性質を持った酵母を利用しています。清酒酵母、なんて言ったりもしますね。

酵母=細菌、みたいに漠然としたイメージを持つ方は結構いるんじゃないでしょうか。実は、ココがすでに間違い。酵母は微生物ではありますが細菌ではないのです。

世の生物は大きく3つに分けられます。細菌、古細菌、真核生物の3つです。(これを3ドメイン説といいます)

酵母は1つの細胞の中に様々な細胞小器官を持つ「真核生物」に分類されます。

一方「細菌」は大腸菌や枯草菌に代表されるように、細胞小器官をほとんど持たない原核生物群を指します。

この区分だけを見れば、酵母は一般的なイメージの細菌より、はるかに我々人間に近い生物であるといえます。

3ドメイン説

生物の分類はこの「ドメイン」以降、界→門→綱→目→科→属→種と細かくふるいにかけることで決定されます。清酒酵母で例えると

真核生物ドメイン/菌界/子嚢菌門/半子嚢菌綱/サッカロマイセス目/サッカロマイセス科/サッカロマイセス属/サッカロマイセス セレビシエ-××

みたいな感じです。××にはK-1801とかK-901とか酵母の固有名詞が入ります。呪文みたいですよね。お酒の席で「うーんこの酒に使われている酵母は真核生物ドメイン/菌界/子嚢菌門(中略)セレビシエだね」なーんて言えれば博識な人か重度の変態と思ってもらえるかもしれません。

酵母はどこにいる?

現在世界に存在する微生物のうち、単離培養に成功しているものや機能性が解明されているものは1%程度だとされています。その中でも酵母は樹木、虫、食品、海水、淡水などなど様々な場所で発見されているんです。

例えば、多くの酒蔵で使用されている「きょうかい酵母」はもろみ等から単離、培養したもの。それ以外にも正宗酒造の菊正酵母や酒井酒造の五橋酵母に代表される蔵内から単離された蔵つき酵母や、花の蜜から単離された花酵母なんて洒落た酵母も日本酒造りでは使用されています。

酵母の単離

元々、各地の酒蔵ではそれぞれの蔵に住み着いた蔵つき酵母を利用してお酒を醸していました。

そのため酒蔵ごと、または造る年によって種質が安定しないことも多くありました。特定の清酒酵母が酒の発酵に関わっている事が発見されたのはざっくり明治のあたり。どこからか単離された酵母を培養して使用し、酒質を安定させる方法は案外最近になってから行われ始めたんですね。

さてこの酵母の単離培養、一言では片づけられない膨大な作業がつきまといます。何が行われているんでしょうか?

酵母が便利なのは、色々な代謝物を出すから!

清酒酵母という呼称の通り、酒造で使用する酵母は糖を酵素で代謝してアルコールを合成する機能がなければなりません。いわゆる発酵ですね。化学式で表すとこんな感じ。

酵母 酵素反応

この反応が起こるためには「酸素が少ない」「栄養素が少ない」「温度が至適温度より低い」等の条件が必要です。生かさず殺さず、ギリギリまで痛めつけると、酵母は周囲の酵母を殺して少ない栄養を獲得しようとします。そのために合成するのがアルコールや酸などの化合物です。

アルコール発酵

実は、酵母はアルコールをつくる癖にアルコール耐性はそんなにありません。清酒酵母は発酵だけでアルコール濃度を20%前後まで高めることが出来ますが、それ以上は酵母が皆死に絶えてしまうので「20%前後が限界」と言った方が正しいんですな。

また、前述の条件をひっくり返したものが「酒母」になります。酵母が生きやすい、ゆとり溢れる空間を用意してあげると反応の優先度が酵母の増殖>>>アルコール発酵になりまして、フラスコ一本からタンク一杯まで酵母が増えてくれます。

酒母 増殖

こういった酵母の生態に関するあれこれを「酵母の機能性」といいます。

また正体不明の酵母さんを見つけ出し、機能性を調べて定義することを「機能性調査」とか「機能性の探索」と呼びます。大学を含む様々な研究機関で盛んに研究されている、最高に熱くてナウい分野です。

清酒酵母に求められる機能は「糖を代謝しアルコールを合成する」「良い香りのする物質を合成する」がメインですが、実際に使用するためには「環境変化にどれくらい強いか」「毒性物質を合成しないか」「他の合成された物質が酵母にどんな影響を与えるか」などなど、途方もない機能性を研究し、安全性と有用性を確かめなければなりません。

自然界やもろみの中に存在する微生物群の中から酵母を単離し、その中から清酒酵母としての機能性を備えているものを見つけ出す…途方もない時間と労力を使い、答えを探すのではなく「答えをつくる」大変な研究ですが、とってもロマンに満ち溢れていると思いませんか?

岩手には、岩手県酒造組合と岩手県工業技術センターが共同開発した「ゆうこの想い」、「ジョバンニの調べ」という県産酵母が存在します。菊の司にもこれらの酵母を使用したお酒があるので、是非飲み比べて違いを探してみてください。

余談ですが、新しい生物や酵母、物質を発見したときには発見者が自由に名前を付けていいことになっています。ゆうこの想いやジョバンニの調べは、岩手県で行われたきき酒の大会の優勝者、準優勝者によって命名されました。

蔵つき酵母や県産酵母を調べてみると、結構面白い名前の酵母に出会えますよ。そこからお酒を選んでみるのもまた楽しいんじゃないでしょうか。

 

さて、おもしろおかしい「清酒酵母と機能性」のはなし、いかがでしたでしょうか?

実際自分で書いてみて思ったのは「やっぱり理系って変態の巣窟だよなぁ」って事。自分は分子細胞生物学という生命系でもちょっと面倒な学問出身ですが、やっぱり自分のテリトリーの話はどんなに難しい内容でも“楽しい”!

この理系ならではの楽しさが、日本酒を通して理系嫌いの人にちょっとでも伝わればなぁとおもいます。

では、今回はこの辺りで。次回もまたよしなに。

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