これが分かれば立派な日本酒博士⁉アルコール発酵のはなし
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2020.09.23

これが分かれば立派な日本酒博士⁉アルコール発酵のはなし

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こんにちは!最近ユーキ〇ンを眺めるのが趣味になりつつある風香です。

世の中いろんな学問がありますよね。醸造も同じです。

日本酒も字面だけ見ると文化とか歴史とか、文系っぽい学問の印象を持つ方もおおいのかも?いやいや、そのメカニズムこそ世界中で研究されてる生物理系分野の十八番!

…ということで、今回は風香のゴリゴリ理系小話第二弾、アルコール発酵のおはなしです。

アルコール発酵って何?

まずは発酵の定義からおさらいしましょう。

発酵とは、微生物が己の酵素で有機物を分解あるいは変化させ,特有の最終産物をつくりだす反応のことです。最終産物がアルコールと二酸化炭素ならアルコール発酵、乳酸なら乳酸発酵…のように名称が決まります。日本酒ではこの役割を酵母が担っていますよね。

グルコース代謝

ここでポイントとなるのがアルコール発酵は「アルコールを生産するための反応」ではなく「最終的にアルコールが生産される反応」だという点です。何が違うんだって思いますしたね?言い換えれば「アルコールを作りたいわけじゃないんだけど、そうせざるを得ない反応」ってことです。

じゃあなんでアルコール発酵なんて反応をしているのでしょうか。

アルコール発酵は酵母が生き抜くための防衛装置!

ここで私が以前書いたコラム「仕組みが分かればもっと面白い!清酒酵母と機能性のはなし」のおさらいです。

清酒酵母はアルコールに対する耐性を持ちません。

また清酒酵母は「酸素が少ない」「栄養素が少ない」「温度が至適温度より低い」等の過酷な条件下になるとアルコールや酸などの物質を作り、周囲の酵母を殺して少ない栄養を獲得しようとします。

アルコール発酵

このアルコールをつくるという部分がアルコール発酵に当たるわけですが、先ほど申し上げた通り酵母だって自身にとって毒であるアルコールをそうホイホイ作りたいはずありません。でも作っちゃう、なんででしょうか。

その秘密は「糖代謝」というシステムにあります。

糖代謝とは、読んで字のごとく糖分を代謝する(分解、吸収してエネルギーにする)反応です。もっとも我々に身近な反応としては「呼吸」がそれにあたります。

呼吸の反応は「呼吸の収支式」という式でまとめることができます。中高の生物で習った方も多いのではないでしょうか?

C6H12O6 + 6H2O + 6O2 → 6CO2 + 12H2O+38ATP

厳密にいえば呼吸は3つのステップからなるのですが、それを説明するためにはコラム3回分ほどの文量が必要となってしまうので今回は割愛します。参考までに反応経路を乗せておくので気になる方は勉強してみてください。ちなみに、私が大学生の頃はこの反応経路を全部書けとかいう試験がありました。もうやりたくないです。

解糖系、クエン酸回路、電子伝達系

ニュートリー株式会社HPより抜粋

さて、注目してほしいのは式の最後にいる「ATP」という文字。これが糖を分解して得られたエネルギーに値します。つまり呼吸をすれば1つのグルコースからエネルギーを38個作れるということです。

アルコール発酵も呼吸と同様に糖代謝をするための反応です。同じような式で表すとこうなります。

C6H12O6 → 2C2H5OH+2CO2 +2ATP

なんと!アルコール発酵では1個のグルコースから2個のエネルギーしか作れません!

酵母は酸素があってもなくても生きていける生き物(このような生物を通性嫌気性生物といいます)ですので、酸素があれば当然呼吸をメインに行ってエネルギーを獲得しています。しかし、酸素が少なくなった時…醸造用のタンクなど酸素が供給されにくい環境になってしまうと途端にエネルギー獲得手段が奪われてしまいます。

すると酵母は

「酸素がないからエネルギーが作れない…とか言ってる場合じゃねえ!このままだと死ぬぞ!手段は選ばぬ少なくてもいいからエネルギーを作って生きるぞ!うおぉぉぉぉぉおおおおお!!!!」

と代謝のスイッチを呼吸から発酵へ切り替えるのです。

こと日本酒の醸造においては「呼吸ができなくても生存できる」かつ「アルコールなどの他微生物をけん制できる物質を生産する」能力を持った酵母…清酒酵母がもろみの大部分を占拠することで日本酒ができるわけです。うーん、ロマンティック。

微生物が支える生活のはなし

消毒 フリー

さて、ここからはちょっとした余談を。

日本酒をはじめとした飲酒用のアルコールは微生物の働きで造られていますが、飲めないほうのアルコールはどうなんでしょうか?

例えば、消毒用のアルコール。病院なんかで使われるものはアルコール濃度が70%近くあります。

このような高濃度のアルコールも、基本は飲料用と同じ。微生物のアルコール発酵を利用してアルコールを作ります。濃度を高める場合はここから蒸留を重ねて水分を除く…要は焼酎と同じ手順です。

菊の司のおいしい焼酎のお話はこちらをチェック!

 

焼酎になるとアルコール濃度は大体25~45%。まだまだ消毒用にするには薄いので、もっともっと蒸留を重ねていきます。

菊の司で販売している消毒用アルコールは濃度70%!日本酒に蒸留して蒸留してやっとこさ完成しました!

IMG_0253

 

市販されている無水エタノールは濃度93%まで蒸留したものに化学反応を用いた処理を行い、濃度99.5%以上にまで高めています。

一応、化石燃料から有機合成することでもアルコールを作ることはできますが、微生物の発酵を利用したほうがはるかに簡単に、低コストでアルコールを作れるんです。

また、排水の処理や特定の物質の合成なんかも微生物が担っている場合が多いですよね。人間が人工的・科学的にアプローチをかけるよりも、微生物を利用したほうがよっぽど効率的な場合が案外ある。食生活だけでなく社会生活にも欠かせない微生物、とっても偉大な生き物なんです。

さて、だいぶニッチな「アルコール発酵」のはなし、いかがでしたか?

ひとえにアルコールといっても、そこには酵母にしか作り出せない緻密性とどん欲な生存本能、そしてそれを解明した人間の探求心がギュウギュウに詰まっています。

是非お酒を口に含むときは、酵母の熾烈な戦いを思い出していただければなと思います。

それでは、今回はこのあたりで。次回もまたよしなに。

  

  

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風香

2019年商品部入社。
元分子細胞生化学専攻の理系。理系ですが歴史や軍記物の読書が趣味です。本コラムでは歴史や文化、古典に時々科学をまじえながら「食卓の外の日本酒の話」をしたいと思います。

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