鬼平犯科帳に学ぶ。風邪の味方「卵酒」のはなし
鬼平犯科帳に学ぶ。風邪の味方「卵酒」のはなし

2021.02.20

鬼平犯科帳に学ぶ。風邪の味方「卵酒」のはなし

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こんにちは!風香です。

冬の寒さは衰えも知らず、盛岡は毎日雪が降ったり地面が凍ったりしています。体調管理に気をつけてはいるものの、こんなに寒い日が続くと風邪もひいちゃいそうです。
そんなこと考えてるとふと思い出したセリフが。

「これ、女房どの。卵酒をこしらえてはくれぬか」

池波正太郎作「鬼平犯科帳」という小説に出てくる主人公、長谷川平蔵が風邪気味だったり仮病だったり疲れたときにこぼすセリフです。

今回の風香のコラムは、時代劇小説に学ぶ風邪や寒さの味方「卵酒」のおはなしです。

鬼平犯科帳と卵酒

冒頭でサラッと書いてしまいましたが、皆さん鬼平犯科帳はご存じですか?

時代劇・歴史小説家の池波正太郎を代表するシリーズで、ドラマや映画、舞台、漫画、アニメにもなった時代劇小説です。

フジテレビ鬼平犯科帳

フジテレビHPより

我が家では「日曜10時はスカパーの時代劇専門チャンネルで鬼平犯科帳を見る」というのが習慣化しておりまして、私も幼児向けアニメや特撮ものよりも時代劇をよく鑑賞する幼少期を過ごしておりました。もしかしたら、私が理系分野を学びながらも文系好きになったのはこの辺りがルーツなのかもしれません。

時は江戸時代、火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)という放火や盗み、賭博などを取り締まる部署のリーダーである長谷川平蔵、通称「鬼の平蔵」「鬼平」は、様々な事件や悪事を解決しながら江戸の町を守ります。

江戸に住む人々の愛憎入り混じるヒューマンドラマや、手に汗握る戦闘シーンなどこの小説にはたくさんの見所がありますが、仲でも私のイチオシはどの話にも寄り添う料理の描写です。

作者の池波正太郎は美食家でもあり、彼が執筆した作品の多くに食事や料理に待つわる描写が沢山織り込まれています。作中に出てくる食事をまとめた本まで書くぐらいの徹底ぶりです。

江戸時代の食文化は、その多くが現代にまで残る熟達したものであったといわれています。現代の日本酒の醸造方法が固まってきたのも江戸の頃でしたよね。江戸の人々にとって食というものがどれほど重要であったかが伺えます。

さて、そんな江戸の町を舞台にした鬼平犯科帳。

鬼平の好物の一つが「卵酒」であります。夏の疲れが出たり風邪をひいたときに鬼平は決まって奥さんに卵酒を作るようねだります。普段盗人に鬼と称される人が奥さんに甘える姿は、ちょっとかわいく思えたり。鬼平の人となりを表現するのによくよく現れるのが「卵酒」なのです。

鬼平流の卵酒をつくってみる

鬼平犯科帳流卵酒

卵酒といってもいろいろあります。砂糖を入れると練酒、塩を入れると卵酒と区別するところもあるんだとか。

せっかくなので、今回は鬼平が奥さんにねだった描写を参考に「鬼平流の卵酒」というものを作ってみようと思います。

「これ、女房どの。卵酒をこしらえてはくれぬか」

久栄(女房どの)は、侍女と共に台所へ出て支度をととのえ、これを平蔵の居間へ運び、火鉢の前へすわり、手ずから卵酒をつくりにかかった。

小鍋へ卵を割りこみ、酒と少量の砂糖を加え、ゆるゆるとかきまぜ、熱くなったところで椀へもり、これに生姜の絞り汁を落とす。これが平蔵好みの卵酒であった。

久栄は、なれた手つきながら、凝と火の加減と箸の先を見つめている。

『毒』より抜粋

用意するのはこちら。

材料

まず小鍋に卵を割ります。

卵を割る

酒と砂糖を加えて混ぜます。

 

分量の記載がなかったのでここの比率は完全に個人の好みによると思います。今回は和の酒180 mL、砂糖大匙2/3くらい入れました。

砂糖と酒を入れる

沸騰しないように混ぜながら弱火で加熱します。

急に温度を上げると卵が固まってしまうので、辛抱強くじわじわ温めます。

火にかける

いい塩梅にとろとろになったらお椀に注ぎ…

椀に盛る

生姜の絞り汁を注いで…完成!

生姜を入れて完成

今回は卵とお酒を同時に投入して温めましたが、先にお酒を沸かせてから火を止め、溶き卵と砂糖を入れて温めた方が失敗は少ないように思います。

肝心のお味は、あたたかいお酒風味のプリンといった感じ。日本酒の苦みやのどに来る感じがずいぶんマイルドになってます。

卵酒と言えば、風邪をひいたときに飲むものという印象を持つ人も多いはず。お酒、生姜、あたたかいとなれば飲めばポカポカ、血流がよくなって温まるのは確実でしょう。

加えて、薬として使用されていた過去を持つ栄養満点の卵も入っているのですから風邪に効くと言い伝えられてるのも納得です。厳密に言うと風邪の特効薬という訳ではないのですが、まぁプラシーボ効果という事で。

ひとつ注意するとすれば、卵酒にはお酒が入っているので若干の利尿作用があることです。体が温まって発汗することも考えると、一緒にお水を飲んでおきたいところですね。

おじさんくさい渋い飲み物はイヤ!そんなナウいヤングな皆様に朗報です。

ほとんど同じ工程でつくれる「エッグノッグ」という超絶オシャンティなカクテルが存在します。紹介するのは菊の司のおしゃれ番長ももこ。

 

読んでみたところ牛乳と生姜の有無くらいしか違いはないので、温めた日本酒が苦手という方はエッグノッグのほうが牛乳効果でおいしくいただけるかもしれません。

も~っと食べ物で温まりたい方はこちらの記事もチェック!

 

余談 家計の味方の卵のはなし

今回の蛇足は卵の歴史のお話です。

たまご

卵が良質なたんぱく質やビタミン、鉄分ほかたくさんの栄養を含むスーパーフードであることは皆さんご存知のはず。では人間が卵に栄養価を見出して食べ始めたのはいつ頃なんでしょうか。

個人的に調べたかんじだと、卵がでてくる最古の記録は紀元前1500年ごろのエジプト。野生種の鶏が産卵期に産む卵の数が5~10個ほどであるのに対し、エジプト史の記録では毎日産んでたらしいのでこの時点で既に鶏の品種改良がおこなわれていたと考えられます。

日本でも古事記に鶏に関する記載があります。弟の嫌がらせに拗ねた天照大神が天野岩宿に引きこもった際に鶏を集めて鳴かせたそうな。雄略天皇のころには鳥飼部という養鶏の専門職もありましたし、日本でも養鶏自体は古くからあることがわかります。

卵を食べる、という行為が広く浸透したのはやっぱり江戸時代になってから。それでも高級品ですがね。

それ以前も食膳や薬として摂取する慣習が貴族の間にはあったようですが、たびたび天皇による生き物殺してはいけない令、生き物食べてはいけない令が出された関係もありあまり浸透はしなかったようです。

庶民の食卓に頻繁に上るようになったのは大規模な養鶏場や冷蔵技術、運搬技術が確立した昭和30年ごろから。長く鶏と付き合ってきた日本人ですが、家計の味方と呼ばれるようになったのは割と最近なんですね。

 

さて、時代劇小説「鬼平犯科帳」「卵酒」の話、いかがでしたか?

江戸時代を題材とした創作物には、案外現代でもなじみ深い料理がたくさん出てきます。江戸時代の飲兵衛たちに思いはせながら、まだまだ寒いこの冬の日に卵酒でほっこり温まるのもオツなのではないでしょうか。

それでは、今回はこのあたりで。次回もまたよしなに。

  

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鬼平犯科帳に学ぶ。風邪の味方「卵酒」のはなし
風香

2019年商品部入社。
元分子細胞生化学専攻の理系。理系ですが歴史や軍記物の読書が趣味です。本コラムでは歴史や文化、古典に時々科学をまじえながら「食卓の外の日本酒の話」をしたいと思います。

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