
2019.12.13
まいど!ゆーきです。
自家醸造ライフ、楽しんでますか?
お酒、というものはご存知の通り微生物の発酵によって醸されるものです。多少のプロセスは違っていても、日本酒も、ビールも、ワインも、原料の糖質を酵母が食べてアルコールを出す。理屈はカンタンなんです。
材料自体はスーパーで誰でも入手可能です。
あなただけのお酒をおうちで造ってみませんか?
…はい、ごめんなさい。
何を言っているんだ、という人も多いはず。
日本の酒税法では、酒造免許を持っていない人がお酒をつくることは禁止されています。絶対に、家で酒なんか造ってはいけません。
新鮮な酒粕が出回る冬のシーズンになると、必ず「自家製どぶろく自慢(違法行為)」している人をみかけます。もちろんその場でやさしく親切に教えてあげますが、日本でお酒を密造した場合、10年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。知らなかった、あちゃー、では済まされないことなんです。
日本でのお酒の製造や販売は国税局が管轄する酒税法によってルールが決まっています。
販売はかなり規制緩和されているので、割と誰でも販売免許は取得可能です。しかし、製造の方はかなり厳しく制限されています。
こと日本酒の製造免許については、先日輸出専用という条件付きで許可を検討するという政府の発表が業界をザワつかせましたが、基本的に新規の製造免許は下りません。
実際に現在免許を持っている酒蔵も、年間で60キロリットルの製造見込み(実績)が条件になっており、仮に3年間その基準を下回ってしまうと免許を返納しなければなりません。ちなみに60キロリットルの日本酒は一升瓶で換算すると33,334本です。そもそも、個人が楽しむ範囲で日本酒の製造免許を取得することは事実上無理なのです。
このように規制されたのは1970年ころの話、割と最近の出来事です。
なので、ちょっと田舎のおじいちゃん、おばあちゃん世代はふつうに「どぶろく」をつくっていたと言います。何なら、神社なんかのお祭りや行事で奉納されているくらいで、ただの呑兵衛が行き過ぎたいたずら、というわけでもありません。
そうした理由もあり、規制された現在も「どぶろく特区」というものがあって、やはり条件付きでどぶろくの製造が許可されています。当然、酒税は納めなければなりません。
どぶろくを造ること自体は、そんなに難しいことではありません。
もちろん造ったことはありませんが、ぼくらが普段やっていることに比べれば非常にカンタン。密造酒自慢をしているブログはたくさんあるので、造り方は調べていただければすぐに分かります。
基本的には米、米麹、水。日本酒と一緒ですね。発酵させなきゃいけないので酵母(イースト)や、腐敗防止でレモン汁なんかも使うようです。
なぜ、この時期に出回る酒粕と関係があるのか。勘が良い人は気が付いたかも。
そう、酒粕には大量に酵母が含まれているのです。
酒粕とは、発酵が終わりに近づいたもろみを「槽(ふね)」や圧搾機で搾ったものです。搾り出てきた透明な水分が「酒」であり、残った固形物がいわゆる「酒粕」です。酵母はとても小さい微生物なのでお酒の方にも含まれますが、酒粕にもどっさり残っています。
一般的に、日本酒造りに使われている酵母はお酒造りに適した性質を持つ品種なので、香りが良かったり、アルコール耐性が強かったりと、スーパーで売っているドライイーストより優れている。だから、よりおいしいどぶろくを造りたい人が、新酒の酒粕を狙う、というわけなのです。
あ、誤解しないでいただきたいのですが「ちゃんと造っているどぶろく」はめちゃうまいですよ。
民宿とおのさんのどぶろくを何度かいただいたことがありますが、麹の香り、甘みと酸味があって、少しガス感があって…とても美味しかった記憶があります。めちゃめちゃこだわっていて、原料米は契約栽培にも取り組んでいるし、醸造過程も超高度。普通に勉強になります。
ところで酒造の世界では「みなし製造」という考え方があります。
たとえば、梅酒。
ベースの「焼酎」に、梅や砂糖を入れて漬け込むのが一般的ですが、梅酒は酒税の世界では「リキュール」に分類されます。つまり、ベースのお酒と材料を混ぜ合わせることで「新たな酒類を製造した」という風にみなされるのです。
ただし、条件を守っていれば大丈夫。
まず自分と同居している親族だけで楽しむことを前提に、①アルコール20度以上の課税されたベースを使い、②米、麦、あわ、とうもろこし、こうりゃん、きび、ひえ若しくはでん粉またはこれらの麹を入れず、②ぶどう(やまぶどうを含む)を入れず、③アミノ酸若しくはその塩類、ビタミン類、核酸分解物若しくはその塩類、有機酸若しくはその塩類、無機塩類、色素、香料又は酒類の粕を入れない、ということ。
これらを守っていれば、家で梅酒やブドウ以外の果実酒を楽しむことはできます。要は、余計なものを入れず、再発酵させなければOKとも解釈できます。
ちなみに、旅館や飲食店で振舞う目的で梅酒を漬けることも特例で許可されています。ただしお土産(販売)はダメ。自宅やバーでカクテルを造ることも新たな酒類の製造とみなされますが、その場で飲むならOK(テイクアウトはNG)です。
ややこしい。
以前うちの奥様が公開した「日本酒サングリア」もこのルール内なら問題ありません。漬け込みはダメですよ。
結局、めんどくさいから売ってるものを飲みなさい、ということになってしまいがち。
そういう意味では、ぼくら酒蔵や各酒類メーカーは「守られている」ので何とも言えませんが、果たして50年前の規制が今や未来に適切かどうか、ということは話が別です。
当時、酒税は全税収の中で割と高いシェアがあって、酒類増税の際に密造を厳しく取り締まることで酒蔵を納得させた、という見方があります。酒税が上がれば、当然ながら市場価格も高騰するので、じゃあ自分でつくった方が安いじゃん、ということを懸念したわけです。
あえて言えば、「おいしさ」と「安全」でちゃんと価値ある商品をつくっていれば、そんなこと全然リスクにならないのですが、当時はいわゆる三増酒全盛期。三倍に増造した酒がその辺にありふれていたわけですから、仕方がないですよね。三増酒が美味しいかどうかはぼくが生まれる前の話なので知る由もありませんが、品質が何も変わらなければ今までよりも高いお金を払って飲むとは思えません。これは現在でも同じことです。
先ほど触れた輸出専用新規酒蔵の許容の話題もそうですが、やはりある程度の競争はどんな産業にとっても必要なことです。
商売ですから、お酒が売れなければお酒造りはできません。シンプルに言えば、売るため、お客様に喜んでいただくために、より美味しいお酒造りに努力する。それが自然な流れです。
当蔵はもちろんのこと、どの酒蔵さんも努力しています。
しかし、ルールが変わる、仕組みが変わることでその広がりや可能性はどんどん広がっていくのではないかと考えます。というか、自家醸造を禁止しているのって日本くらいです。海外では「ビール醸造キット」がスーパーで売っています。もう、いいんじゃないかな、とも思うのです。
かといって、チャラチャラした新参ブルワリーには絶対負けませんけどね。
なんにせよ、日本での自家醸造(無免許醸造)は絶対にしてはいけないことです。どうしてもというなら、自家醸造が許されている海外に帰化して思う存分醸してください。
ちなみに酵母を取り出す目的以外なら、ぜひ当蔵の酒粕は自信をもっておすすめします。
うちはお酒を搾ってから「原則無濾過、なるべく無加水」で基本的に5日以内にお酒を瓶詰しています。しぼりたてのお酒が持つポテンシャルをそのままお伝えしたいからです。
同じように酒粕も搾ってから1週間以内に出荷できる状態に包装を施しています。
新鮮な酒粕は、袋に穴をあけなければ風船のように膨らむほど活きがよく、香り、味わいともに非常にふくよかです。甘酒になんかしたら、それこそしぼりたてのにごり酒みたいに、ふわっと麹のいい香りが広がります。ぜひお試しいただければ嬉しいです。
フェアにお酒を楽しんでいきましょうね。
では。